エネルギーの多くは熱として廃棄されている。そのため私たちは、地球温暖化やエネルギー問題の解決に向けて、熱を効果的・効率的に管理する「Thermal Management(熱制御)」の必要性を10年以上前に提唱し、高い性能と経済性を併せ持つ断熱材、遮熱材の開発に注力してきた。注目したのはエアロゲルという材料である。

エアロゲルは「固体の空気」とも呼ばれ、固体断熱材の中で最も高い断熱性を持つ。中でもシリカエアロゲルの熱伝導率は低い(約0・017ワット/メートルケルビン)ことが知られているが、高コストであることが課題だった。

私たちは従来のシリカエアロゲルをベースに粒子径が1000分の1、かさ密度が10分の1の新たな断熱素材の開発に成功した。かさ密度が10分の1ということは、同じ重量で体積が最大10倍以上にも膨張する。一方で体積当たりの断熱性能はそのままのため、エアロゲルの利用コストを桁違いに低減できる。経済性の課題を解決した画期的な技術であり、私たちはこのエアロゲルを「膨張可能な断熱固体空気」という意味を表す「TIISA」と名付けた。

さらに、エアロゲル構造の空間に中空粒子を導入し対流熱伝達を抑制することで、従来のエアロゲルを超える断熱性能を得る技術も開発し特許を出願。2021年4月にはNIMS認定ベンチャー(株)サーマリティカを設立して、「TIISA」の市場開拓と商業生産技術の確立を図っている。

実用化に向けて現在取り組んでいる具体的な案件を2件紹介する。1件目は21年8月から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて行っている、液化水素運搬貯蔵向け断熱材の開発である。極低温(マイナス253度C)である液体水素の長期貯蔵・運搬容器の要求に応える高性能断熱材で、水素サプライチェーン構築にとって不可欠なものである。

2件目は、21年12月に契約した宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究事業である。月面や火星での活動に向けて、コンパクトに運搬し、現地でかさを増やせる宇宙服用の断熱材など、宇宙産業への実装に向けて第一歩を踏み出した。

そのほか、建設、プラント、家電、電子部品(半導体)メーカーなどさまざまな業界から強い関心が寄せられている。

これらNIMSの断熱材・遮熱材の研究成果を事業化する取り組みを通じて、新しい断熱材市場の開拓に挑戦していきながら、地球のサステナビリティに貢献することを目指す。

物質・材料研究機構(NIMS) 構造材料研究拠点 超耐熱材料グループ 主任研究員 ウー ラダー
 2009年インペリアル・カレッジ・ロンドン工学系材料科学専攻博士課程修了、博士(工学)。同年、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)入所。11年研究員。17年より現職。