乱気流は航空機の安全運航を妨げる要因の一つである。強い乱気流は時に1G以上の上下加速度変化をもたらし、シートベルト非着用の乗員・乗客の体を一時的に浮き上がらせ、壁や天井への激突により重傷・死亡事故を引き起こす。

本邦における大型航空機事故(2001―20年)を例に取ると、全事故数60件のうち乱気流由来の事故は実に半数以上の38件を占める(国土交通省運輸安全委員会の航空事故調査報告書を基に集計)。

プロペラ機で比較的低高度しか飛べなかった時代には、積雲や積乱雲のない高高度域では乱気流には遭遇しないと考えられていた。しかしジェット機による高高度飛行が可能になると、実際には雲がなくても乱気流に遭遇することがあると分かった。この種の乱気流は雨雲を伴わないことから「晴天乱気流」(CAT:Clear Air Turbulence)ともよばれ、現在旅客機への搭載が義務づけられている気象レーダーでは検知することができない。結果として、事前にCATを避けて通ることは難しく、航空機にとって特に脅威となっている。

CAT由来の事故防止を目的として、JAXAではCATを検知できる航空機搭載用の「ドップラーライダー」を開発した。そして検知結果を用いてパイロットの乱気流回避判断を支援する「乱気流事故防止システム」の飛行実証を行った。ドップラーライダーはレーザー光を用いた計測手段であり、大気中に浮遊するエアロゾル粒子(固体または液体の微粒子)による散乱光とそのドップラー効果を利用して機体前方の風速を計測する。エアロゾル粒子は晴天時でも大気中に存在するため、CATの検知が可能である。

検知・判断支援技術の開発に続き、さらに将来を見据えた技術の研究開発も進めている。我々のチームでは、ライダーで得られる機体前方の風速情報を利用した自動制御により、航空機の過大な揺れを軽減する技術に取り組んでいる。現状の自動操縦装置で用いられる自動制御アルゴリズムでは、突発的な強い乱気流に対して十分に揺れを軽減することができない。

これに対して前方風速情報を用いてあらかじめ乱気流に「備える」アルゴリズムであれば、現状よりも高い軽減効果が期待できる。現在はアルゴリズムの検討を進めており、数年後には自動制御の試験が可能な航空機を用いた飛行実証を予定している。我々の技術が航空機の安全運航に少しでも貢献できるよう、担当者一同実証に向けた準備を進めているところである。(月曜日に掲載)

航空技術部門 航空安全イノベーションハブ 気象影響防御技術チーム 主任研究開発員 濵田吉郎

98年東京大学大学院工学系研究科博士課程中途退学後、航空宇宙技術研究所(現・JAXA航空技術部門)入所。航空機・宇宙機の誘導制御に関する研究開発に従事し、19年より現職。博士(工学)。