NIMSは2017年以降、民間企業の持つ「基礎研究所」の一部機能を担い、産業界とアカデミアをつなぐ分野別の材料オープンプラットフォーム(MOP)を運営している。化学、鉄鋼にはじまり、全固体電池、医薬品関連の四つの分野において、日本を代表する企業が集結し、NIMSを中核として基盤的な共通課題に取り組むことで、各分野におけるわが国の国際競争力の向上に貢献してきた。そして22年4月、五つ目のMOPとして立ち上げたのが「磁石MOP」である。

省エネ社会実現に向けて、いま磁石材料の重要性が急速に高まっている。世界的に普及が進む電気自動車の心臓部であるモーターや、再生可能エネルギーとして注目を集める風力発電の発電機などの高効率化には、強力な永久磁石が必要となるからである。82年に佐川真人氏らが永久磁石の代表格であるネオジム磁石を発明するなど、日本は磁石開発で世界を先導してきた。

10年のレアアース危機を契機として、ネオジム磁石の応用に不可欠であったジスプロシウムなどの希少元素によらない次世代磁石材料を開発する機運が高まり、NIMSは12年に開始した「元素戦略磁性材料研究拠点(ESICMM)」の中核機関を10年間務め、世界的に高い評価を得て事業は終了した。

一方、近年、磁石開発に関して海外勢の勢いが増してきている中、ESICMMで構築された希土類磁石の先端解析設備群と人材ネットワークを活用し、産業界が必要とする基盤研究をアカデミアと連携で発展させることを目的として、磁石メーカー4社と磁石MOPを設立することで合意した。

磁石MOPでは、10年先の磁石応用に向けた共通基盤研究課題を4社と協働して設定し、単に従来の研究を継承するだけでなく、微細構造や熱力学データを活用し、用途に応じた材料開発を迅速に行えるデータ駆動型磁石設計ツールの開発も目指す。磁石MOPではNIMSの研究者だけでなく、大学とのクロスアポイントメント制度などを活用、オールジャパンの人材を活用し、単独企業ではなし得ない希土類永久磁石材料の世界最高水準の基盤研究を産学で推進することで、わが国の磁石産業の国際競争力の強化に貢献することを目指す。

物質・材料研究機構(NIMS) 理事長 宝野和博

88年ペンシルベニア州立大院博士課程修了Ph.D.、同年カーネギーメロン大ポスドク。90年東北大金属材料研究所助手を経て、95年に科学技術庁金属材料技術研究所(現NIMS)に採用。04年フェロー、18年理事、22年4月より理事長。