将来、コンピューターに仕事を代替される確率は98%―。2013年の英オックスフォード大学の研究論文では証券会社や保険会社の事務員と共に会計士が将来仕事を失うと推計された。これを機に日本では学生の会計士離れ、国内監査法人での人手不足に拍車がかかった。ただ英論文はデータ取得や研究デザインに問題が指摘されている。そこで理化学研究所と日本公認会計士協会はより精緻に代替可能性を検証した。結果、代替可能性は大幅に低下した。

「英論文に対して複数の否定的な結果が出ている。調査が強引だったというのは共通認識」と星野崇宏理研経済経営情報融合分析チームリーダー・慶応義塾大学教授は振り返る。マイケル・オズボーン教授らの研究では職務内容を人工知能(AI)関連研究者が代替できそうか判断したデータから代替可能性を見積もっている。

そこで理研などでは会計士協会から監査業務についてAI研究者にレクチャーを実施し、各業務の評価に取り組んだ。専門家のフィードバックを受けて再調査を繰り返し、結果を収束させるデルファイ法を用いている。

結果は「顧客との調整」は10年後の代替可能性が18%、「契約時のリスク評価」が42%、「定型的監査手続き」が70%だった。それぞれの昇進への重要度は11%、8%、5%と代替可能性が低い業務は人事で高く評価されている。補助者が担う業務でも代替可能性が18%と最も低い「顧客との調整」が人事評価で最も重視されていた。AIによって会計士の職業がなくなるのではなく、職業の中身が付加価値の高い仕事にシフトしていく実態を捉えている。

静岡県立大学の上野雄史教授は「AIで業務負荷が減った分は、ESG(環境・社会・企業統治)など財務諸表を通した顧客とステークホルダーとのコミュニケーション支援など高付加価値な業務にリソースを割り当てることになるだろう」と説明する。

一方で代替可能性が81%と推定された「証憑(しょうひょう)突合」の業務も下積みのために残すべきという意見もある。だが上野教授は「監査法人は単純作業の外部委託を進めている。人手かAIかに限らず、会計士が自らやる仕事でなくなってきている」と指摘する。

研究ではAI活用で現行業務は約4割の負荷軽減が見込めると推計された。星野教授は「監査法人や会計事務所は業務にかかる人数や時間で受注金額を交渉している」と指摘する。効率化が収入減につながる可能性はある。AI代替よりも市場競争と新しい価値提案が喫緊の課題になっている。(小寺貴之)