トヨタ自動車が、水素エンジンの道を広げる挑戦に乗り出す。従来の乗用車向けの開発に加え、いすゞ自動車、日野自動車、デンソー、商用車の脱炭素化事業などを手がけるコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)の計5社で、大型商用車向け水素エンジンの基礎研究を始めた。脱炭素化の選択肢拡大はもちろん、その先には水素消費量を増やすことによる水素ビジネスの好循環と定着を見据える。(名古屋・政年佐貴恵)

共同研究ではまず大型ディーゼルエンジンを対象に、技術的なポイントとなる水素の燃焼について、単気筒レベルで燃焼室の気流の把握といった確認を行う。次のステップとして、いすゞや日野自のエンジンを使った実証試験を進める方針だ。

水素エンジンはコスト面でのメリットが大きい。既存の技術や設備を活用できるほか、トヨタが日野自と開発する大型燃料電池(FC)トラックのFCスタック部分を置き換えれば実現できる。CJPTの中嶋裕樹社長は「既存の物を利用できれば顧客に相当なメリットがある」と話す。

水素エンジン商用車に取り組む第一の理由は脱炭素化だが、もう一つの重要テーマに「水素消費量の拡大」がある。水素利用が普及しない理由の一つは、水素ステーションの収益性だ。

政府は現在170程度のステーションの数を、2030年までに1000基に増やす目標を掲げる。しかしステーションの整備費用は2億円程度とされる。初期投資負担に加え、水素消費が少ない現状では事業採算性が見込めず、事業者が広がらない。

中嶋社長は「ステーションの稼働率向上と事業の成立性は水素普及のカギだ」とし、水素消費量の増加が一つの解決策だと説く。大型トラックならば一度に多くの燃料を使う上、決まったルート上に水素ステーションを設置することもでき、課題解消につながる可能性がある。

トヨタは耐久レースの現場で1年以上、水素エンジンの実証試験を重ねてきた。佐藤恒治執行役員は、市販化までの道のりは「富士登山で例えれば4合目まで来た」と手応えを示す。しかし「乗用と大型商用車は別物だ」(中嶋社長)。

現在、レースで使用している直列3気筒1600ccターボエンジンに比べ、商用大型ディーゼルエンジンは容積で10倍以上大きい。燃料となる水素と空気を最適に混合し、燃焼させる技術的な難度は高い。また幹線物流を担うだけに、航続距離の延長も重要な課題だ。中嶋社長は「東京―名古屋間を水素充填せずに走ることが、顧客に使ってもらうための最低限のハードルだ」と話す。

商用車の脱炭素化と水素社会の実現という二つの大きなテーマを達成するには、レース現場で培った開発サイクルの短期化を今回の協業でも実行できるかが重要になる。