電圧・周波数の変更や電力変換を行う機能を持つパワー半導体。その性能を左右するウエハーの素材技術が変わり始めた。電気自動車(EV)などの新分野では従来のシリコンに替わる次世代素材が注目されている。大電流・高電圧への対応や消費電力の低減のニーズが新たな商機を生む。炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などで成長を狙う素材各社の動きを追った。(梶原洵子、大川諒介)

【SiCへの投資加速】NEDO、8インチ開発に186億円支援

「車載パワー半導体は、シリコンからSiCへオセロのように変わる」。昭和電工の高橋秀仁社長がこう語ったのが約1年前。今ではその通り、半導体各社のSiC半導体への投資が加速し、市場は着実に変わり始めている。

昭和電工はSiC基板上にエピタキシャル薄膜を成長させたSiCエピウエハーの外販で世界最大手。近年、独インフィニオンテクノロジーズやローム、東芝デバイス&ストレージ(東京都港区)と相次ぎ長期供給契約を結んだ。引き合いが増加する中、同社は3月に6インチSiC単結晶基板の自社生産を始めることも公表。外部調達と合わせて、基板を安定的に確保し、SiCエピウエハーの供給体制を強化する。

半導体産業においてウエハーは最重要素材の一つ。国を挙げたSiC基板メーカーの育成も新たな段階に入った。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、主流の6インチの次にあたる8インチウエハー技術の開発を目指す3件の研究計画に約186億円の支援を決めた。昭和電工、オキサイドなど2社、セントラル硝子がそれぞれ、高品質な単結晶の安定的な量産技術の確立に向けて新たな手法に挑む。

セントラル硝子は、炭素を含むシリコン溶液中で結晶を育成する「溶液法」を用いた研究を進めている。溶液法は結晶化する時の温度変化がなく、熱力学的に平衡なことが特長で、従来の気相法に比べ結晶品質を高めやすい。また、インゴット(結晶塊)を長尺化しやすく、スライスしてより多くのウエハーの効率的な製造につながる。8インチ技術を見据えながら、「まず6インチウエハー向けの量産化技術を早期に確立していく」(同社)とする。

【GaNオンSiでコスト低減】5G・6Gで採用期待

GaNオンSiは、Si基板上にGaNを結晶成長させた材料。高周波用途に向くGaNの特性を生かせ、広く普及するSi基板を用いるためコスト低減が見込める。主要市場のEVに加え、第5世代通信(5G)や次の6G通信規格分野で採用が期待される。これまで数百ボルト級の中耐圧デバイス向け製品が開発された。

高耐圧対応のためには、Si基板に十分な厚さのGaN層を成長させる必要がある。しかし、化学気相成長(CVD)でGaN層をつくる際、熱膨張係数の差から基板に反りが生じるなど技術的な課題がある。

この課題に対し、米クロミスはGaN成膜時の反りを抑制できる独自材料「QST基板」を解決策として提案している。これに着目したのが信越化学工業だ。クロミスの技術を譲り受け、自社で持つGaNオンSiの技術を応用し基板材料の製品化に着手した。QST基板を独自改良し、耐電圧1800ボルト以上のパワーデバイスや高周波デバイスに応用できる基板材料を開発。子会社を通じてGaN成膜を施したウエハーの製造販売も行い、将来は12インチ化を見据えた開発を目指す。

【GaNオンGaNで高性能】22年度中に実証設備稼働

住友化学や三菱ケミカルグループなどはそれぞれ、22年度中に大口径GaN単結晶基板の実証設備を稼働させる。現在のGaNパワー半導体はシリコン基板上にGaN結晶を成長させたもの。これに対し、GaN基板上にGaN結晶を成長させれば、今はまだ研究開発段階だが、より高性能なパワー半導体の実現が期待される。

住友化学の松井正樹取締役専務執行役員は「GaNオンGaNデバイスは、耐電圧・動作周波数・サイズの点で他を上回る特性が期待される」と力説する。GaN基板の要素技術開発をほぼ完了し、今後、歩留まりと生産性向上に注力する。新デバイスの市場創出にも取り組み、24年度に本格量産を目指す。

三菱ケミカルグループと日本製鋼所は、量産実証設備に低圧酸性アモノサーマル法を採用。超臨界状態にしたアンモニアにGaN多結晶を溶かし、単結晶を再析出させる。東北大学と日本製鋼所と共同でアンモニアに添加する硬化剤を工夫し、従来方法より低圧で大量に溶けるようにした。

【「日本発」酸化ガリウム】再生エネ・防衛など普及見込む

酸化ガリウム(Ga2O3)は、情報通信研究機構(NICT)と東京農工大学、タムラ製作所などの研究チームが、パワーデバイス向けエピウエハーを世界で初めて開発した〝日本発〟の材料だ。

ノベルクリスタルテクノロジーの酸化ガリウムエピウエハー(4インチ)

融液法で単結晶を育成し、効率的に基板を製造する技術がおおむね確立されている。他の新材料と同様にデバイスの電力変換損失を低減し、そのうえ大幅な低コスト化が見込めるとして期待される。一方で、性能を十分に発揮させるためには既存のデバイス構造を大きく見直す必要がある。

「実用化が進めばSiCと同等以上の特性を発揮できる。将来は高耐圧領域で置き換えを狙う」とノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県狭山市)の倉又朗人社長は戦略を語る。EVのほか、再生エネや防衛分野などで普及を見込む。

同社はNICTの技術を移転し、タムラ製作所の子会社として設立された。研究開発用に基板やウエハーを販売し、歩留まり改善や成膜効率化など技術研究を行う。デバイス開発も「要素技術のめどはついている」(倉又社長)とし、ダイオードやトランジスタを製品化予定だ。「日本発の材料として広く普及させたい」(同)と意気込み、量産に向け技術の磨き上げを急ぐ。


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