ウクライナ侵攻、コロナ禍などにより、価格上昇、輸出入の停止・停滞などが依然として続いている。中小企業基盤整備機構の調査(2022年4―6月期の中小企業景況調査)によると、経営上の問題を複数項目から選択する設問では「原材料・仕入価格の上昇」を1位に挙げる企業が全産業で最多だった。
<参考記事:製造業・建設業・卸売業は過去最高値、中小企業を圧迫する原材料高の実態>

 仕入先を変える、共同仕入れを行い仕入れ値を下げるなど対応法はいくつか考えられるが、販売価格を上げるという対応を取る企業が増えている。下請け業者でも同様に、価格上昇分の転嫁をせざるを得ない状況だ。

しかし、中小企業においては価格転嫁ができない状況が続いている。
 経済産業省・中小企業庁(企業庁)が6月に発表した調査結果(※1)によると、直近6カ月間で発注側との価格交渉が実現していない企業の割合は前回調査比でやや改善した一方、全く価格転嫁できなかった企業の割合は悪化した。

価格転嫁に関する交渉において、下請業者が危惧するのが「買いたたき」だ。「『他社は交渉してこないと言われた』『転注すると脅された』などの対応をされた場合、下請代金支払遅延等防止法(下請法)違反になる場合がある」とリーガルフォースの小林司弁護士は話す。
 下請事業者、親事業者ともにコンプライアンス意識は高まっているものの、どういう場合に下請法の適用があるのか、どのような仕組みになっているのかを理解できておらず、結果的に違反してしまうケースも考えられるという。

2022年1月に「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」が改正された。価格転嫁に関連し、ポイントとなる部分は以下の条項だ。

下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)より抜粋

現行
ウ 原材料価格や労務費等のコストが大幅に上昇したため,下請事業者が単価引上げを求めたにもかかわらず,一方的に従来どおりに単価を据え置くこと。

改正後
ウ 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について,価格の交渉の場において明示的に協議することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。
エ 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。

まず、ウを見ると、「大幅に」の表記が消えている。このことから、親事業者はコスト上昇の大小にかかわらず取引価格の引上げ要求に対して回答する必要が生じたといえる。
 加えて、明示的に協議に応じない、価格転嫁をしない理由を書面やメールで回答しない、といった対応が買いたたきに該当すると示されている。門前払いのような行為はそれ自体が買いたたきに該当する可能性が高くなるのだ。また、仮に回答したところで内容が合理的なものでなければ買いたたきの証拠として残ってしまうことになるため、親事業者側としては慎重な対応が求められることになった。
 「下請法違反は担当者レベルで発生し、親会社の法務部門が関知できていない場合も多いと思われる。会社名義での書面でやりとりが求められるようになると、担当者レベルでは留められず、上司や法務部門への相談によって下請法違反が発覚する可能性が高くなるのではないか」(同社の髙澤和也弁護士)。

では、下請け事業者側は、買いたたきが疑われる行為があった場合どのように対応すればよいか。

1,直接交渉を申し入れる
 前述のとおり、親会社が下請法違反に気づいていない場合もあるため、まずは直接問い合わせてみる手段が挙げられる。しかし直接交渉はリスクや負担が大きいと考える事業者も多く、その場合は弁護士などの第三者を立てて交渉することが望ましい。

2,公正取引委員会もしくは企業庁に申し立てる
 調査が行われ、事実が認められれば親事業者側に指導勧告される。ただし、親事業者側から被害を受けていると告発する事業者が複数いればよいが、告発したことが明るみになると事実上関係が悪化してしまう場合もある。(報復行為自体は下請法違反になる)

3,下請かけこみ寺
 トラブルなどを無料で相談でき、専門家からアドバイスをもらえる。企業庁が受託し全国中小企業振興機関協会が提供するサービス。

4,公正取引委員会の情報提供フォーム
 22年1月に新設された、違反行為が行われているという情報提供のみをするフォーム。公取は毎年ランダムに企業にアンケートを送付し、下請け法違反の実態調査を実施している。このランダム調査に加え、フォームより提供された情報を活用し併せて実態調査を実施する。親事業者側はランダムに送られたアンケートなのか、フォームから寄せられた情報提供をもとに送られたアンケートなのか分からないため、下請け業者としても安心して情報を寄せられる仕組みになっている。
他方で、問題解決に至るまでのタイムラグがあり、実効性は低いという点には注意する必要がある。

どの手段を利用するかは慎重な判断が必要であり、ケースバイケース。「顧問弁護士がいればまずはそちらに相談することや、下請かけこみ寺などの無料相談からはじめてみることがおすすめ」(小林弁護士)。
また、法律に違反する取引なのかを知るために、簡単に下請法などについて知っておくことで「あたり」を付けられるようになる。公正取引委員会のサイトやパンフレットなどに分かりやすく書かれているので一度目を通しておくと参考になるだろう。

発注者側、親事業者側の動き

また、問題が起きても担当者間で情報が止まってしまい、明るみにならないといったことも発生しうる。
 自社で下請法に抵触しているのではということがあった場合、法務関係部署がある場合は状況の相談や契約内容などの調査を依頼するほか、内部通報制度があればそちらを利用する。社内での相談が難しければ、社外相談窓口を設けている場合もある。
 「下請法違反を行うと、企業名が公表されるだけでなく、マスコミに報道されるなどレピュテーションリスク(企業の信頼やブランド価値が低下するリスク)も懸念される。親事業者側も社内の違反に関して見過ごすことのないよう書面などでのチェックを徹底する」(髙澤弁護士)。
 また政府は価格転嫁対策に関する政策として「パートナーシップ構築宣言」を推進している。同宣言はサプライチェーンの共栄に向け、発注側が経営者名で受注側との取引適正化を宣言し、対外公表する制度で、20年5月に導入された。発注側の経営者が受注側の下請け企業との取引適正化を宣言する。宣言企業数が6月に1万社の大台を突破した。このような取組みを通じて、取引適正化に向けた意識を社内に浸透させていくことも有効だ。
<参考記事:下請け取引適正化の宣言、1万社の大台を突破>

また、経産省・企業庁は下請中小企業振興法に基づき受発注間の望ましい取引慣行を示す「振興基準」を7月に改定する。価格交渉・転嫁に関しては、少なくとも年1回以上の価格交渉の実施を発注側に求めるほか、原材料高などの影響を受けた下請け企業から価格協議の要請があった場合、遅滞なく応じることや下請け企業の賃上げが実現するよう十分に協議した上で、取引対価を決定することなどを明記している。(※3)

相談窓口の増加や法改正など、行政の取引適正化を後押しする取組みが広がりつつある。
「この機会に改めて取引や契約を見直してもらい、疑問があれば勇気を出して相談してみてほしい。相談してみて関係ないとしても、それが分かるだけでも一歩前進する」(小林弁護士)。

(※1)「価格転嫁できず」5.3ポイント増 企業庁、下請け中小15万社調査(日刊工業新聞2022年6月23日付)
(※2)中小企業庁「下請代金支払遅延等防止法」
(※3)年1回価格交渉を明記 企業庁、下請振興法「振興基準」改定 (日刊工業新聞2022年7月13日付)

取材協力
リーガルフォース
同社法務開発部和文コンテンツ課マネージャー/弁護士 小林司氏
同社同課 弁護士 髙澤和也氏