米中対立の激化や、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)など地政学的リスクが高まりを見せる中で、海外工場を国内に回帰したり、国内の生産能力を増強したりするケースが相次ぐ。1990年代以降、日本の製造業は海外展開を進展させてきた。昨今の国際秩序の揺らぎが、国内製造業の海外展開という潮流にどのような影響を与えるかは予断を許さない。(編集委員・池田勝敏、同・錦織承平、戸村智幸、高島里沙)

仕入れ確保など影響

国内回帰の機運は高まっている。帝国データバンクは4月、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う企業の仕入れ影響調査を実施。仕入れ数量の確保や、価格高騰の影響を受けていると回答した企業のうち8%が「自社生産拠点の日本国内への回帰」と回答した。

ウクライナ侵攻前の2021年6月に日本政策投資銀行が実施した調査でも、サプライチェーン(供給網)の見直し内容として「海外仕入れ調達先や海外拠点の分散・多様化」とともに、「海外拠点の国内回帰」を選んだ企業が前年調査と比べ増加した。

米中対立やコロナ禍などで経済安全保障の重要性が高まり、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化が求められる中で、海外工場の国内回帰を決断する製造業が出てきた。急速に進展する円安も経営の背中を押す。

生産拠点の回帰まではいかずとも、国内増強を重視する姿勢も鮮明だ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが製造業を対象に実施した21年12月の調査では、サプライチェーンの強靱化に向けた取り組みとして「国内生産体制の強化」を選んだ企業が、前年と比べ約20ポイント増の4割となった。経済産業省がまとめた今年の「ものづくり白書」では、世界的な半導体不足などにより生産活動が影響を受ける中で、国内サプライチェーン強靱化に対して、「より多くの経営資源を投入しようとしている事業者が増加していることがうかがえる」と指摘した。

経産省は「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」で、20年度第1次補正予算以降、計約5000億円を確保。サプライチェーン途絶のリスクが高い製品や部素材の国内生産拠点の整備を支援している。こうした国の後押しも国内投資の追い風となっている。

ただ、日本の製造業は国外の成長を取り込もうと長年、海外展開を基本戦略としてきた。みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介上席主任エコノミストは「経済合理的には日本にあえて立地する選択は取りにくい」と指摘。海外展開の潮流は揺らがないとみる。

地政学リスク低減という観点で重要性が高まる国内生産と、依然として収益向上に欠かせない海外生産のバランスをどう最適化するかが、企業トップの重要課題となる。

エプソン スカラロボ、米中貿易摩擦を回避

セイコーエプソンは、水平多関節(スカラ)ロボットの国内での生産能力を増強する。現在、同ロボットの日本と中国の生産比率は1対4だが、25年度には2対3とし日本の比率を高める。米中貿易摩擦で、米国は中国から輸入する産業用ロボットに追加関税を課している。エプソンはスカラロボットの国内生産を引き上げ、追加関税の影響を回避する狙いだ。

エプソンのスカラロボット

同ロボットの国内生産能力を25年度までに20年度比5倍に高める。豊科事業所(長野県安曇野市)を中心に国内拠点の製造設備の拡充や自動化を進める。総投資額は40億円程度とみられる。

現在、同社のスカラロボット生産は豊科事業所と中国・深圳市の2拠点体制で、深圳が主力生産拠点だ。

国内生産比率の引き上げにより、事業継続計画(BCP)の強化も図る。

ルネサス 閉鎖工場再稼働、政府と歩調合わす

ルネサスエレクトロニクスは14年に閉鎖した甲府工場(山梨県甲斐市)を、24年に再稼働してパワー半導体の生産を始める。電気自動車(EV)用などの高効率なパワー半導体需要が高まるのに対応し、同社のパワー半導体生産能力を現状比2倍に引き上げる。経済安全保障に直結する戦略物資となっている半導体の確保に力を入れる政府と歩調を合わせ、経産省の補助金活用も検討する。

ルネサスの柴田英利社長は「パワーディスクリート(単機能半導体)は内製中心の方針を明確に持っており、必要に応じキャパシティー(生産能力)への投資は躊躇(ちゅうちょ)なく行う」と説明する。

24年に再稼働するルネサスの甲府工場

甲府工場には同社で初めての300ミリメートルウエハーを使ったパワー半導体生産ラインを導入する。設備投資額として22年1―6月期に900億円を計上した。

JFEエンジ 風力発電のモノパイル、国内で初生産

JFEエンジニアリング(東京都千代田区)は、洋上風力の基礎部分になるモノパイルの工場を岡山県笠岡市に新設し、24年4月に生産を始める。モノパイルの工場は国内初。

JFEエンジニアリングのモノパイル工場の完成イメージ。モノパイル工場は国内初

モノパイルは風車を海底に埋めて固定する部分だ。JFEスチールの岡山県倉敷市の製鉄所から、洋上風力専用の厚さ最大130ミリメートルの鋼板の供給を受ける。丸めて管にし、何本も溶接して最長100メートルにする。

国立謙治理事洋上風力PJチーム営業ユニット長は「洋上風力を再生エネルギーの切り札にするという政府方針で市場の継続性が見えた」と工場新設の理由を挙げ、「JFEグループで一気通貫できる」と強みを説く。

モノパイルにかぶせる管、トランジションピースも生産する。津市の工場に運び、制御装置などを加えて完成させる。同工場の設備増強を含め、約400億円を投資する。


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