科学技術分野の経済安全保障が重要になっている。どの技術が重要か見極め、どう守るか、情報管理のルールや体制を整える必要がある。重要な技術と情報を共有できる相手を選定することになる。現在はこうした判断が研究者個人に委ねられる部分が大きい。

この状況を変えるきっかけになると期待されるのが政府の経済安保重要技術育成プログラムだ。すでに2500億円が措置され、総額5000億円規模の措置を目指す。同事業で重要技術の見極めや情報管理ルールなどの仕組みを整える。

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例えば産業界では重要なコア技術を社内に秘匿して磨きつつ、周囲はオープンに競わせて競争優位を作る。科学技術振興機構(JST)の橋本和仁理事長は「技術に精通するほど秘匿する範囲を狭く設定できる」と説明する。反対に技術に疎いと秘匿領域を広く設定し、自社で抱え込むことになる。オープン・クローズ戦略の巧拙が企業の競争力やエコシステム(協業の生態系)の持続可能性を左右する。

国としてはこの重要技術の見極めや開示戦略を設計する仕組みを各分野で機能させる必要がある。同プログラムでは企業やシンクタンクが参画する協議会を設立し、戦略を定めて研究を伴走支援する。初回の公募は2022年内に始まる見込みだ。

課題は公募で研究テーマとチームが採択された後にプロジェクトごとの協議会が設立される点だ。公募審査で研究計画や実現性を計るには、開示基準や連携企業のめどがついている必要がある。しかし研究成果の開示基準がないと、実用化の責任を負う企業はプロジェクト参加を判断できない。本来は公募審査前に協議会や戦略を固めるべきだが手続き上は難しい。

そして水面下では省庁間の予算の争奪戦が始まっている。同プログラム会議の初会合で小林鷹之経済安保担当相は「何が日本の勝ち筋か見定めることは極めて難しい。予定調和的に結論を得るのではなく、自由闊達(かったつ)に議論してほしい」と要望した。

このテーブルには内閣府シンクタンク機能試行事業から重要な先端技術として人工知能(AI)・機械学習技術や量子情報技術、極超音速などの20技術が挙げられた。

ただ事務局からは「海洋」と「宇宙・航空」、「領域横断・サイバー空間」、「バイオ」の4領域でビジョンを定めるようにフレームワークが用意された。20技術のうち「海洋」に関わるのは海洋関連技術、「宇宙・航空」に関わるのは宇宙関連技術と極超音速程度だ。「領域横断・サイバー空間」に大半の技術が分類される。重要技術としては一つしか挙げられなくても、フレームワークで方向性が決まる。内閣府の山下恭範参事官は「戦略が整っている分野は着手しやすい面もある」と説明する。

大型予算を運用してきた分野では官と学で重要技術を見極め、開発工程表を作り、受け皿となる研究組織を維持してきた。経済安保のための体制をゼロから作らなくて済む。

ただ経済安保を検討する仕組みは各分野で有機的に機能させることが重要だ。予定調和は破る必要がある。