水素社会実現のための課題の一つが、気体でかさばる水素の貯蔵の問題だ。このかさばる水素をコンパクト、かつ安全に蓄える技術の一つとして、水素吸蔵合金と呼ばれる材料を使う方法がある。この材料は水素原子を固体の金属原子間に吸蔵するため、気体の状態に比べて1000分の1程度の体積で水素を蓄えることができる。従来の水素吸蔵合金は水素と反応しやすいレアメタルが使われているため、高コストであることが課題となっている。

量子科学技術研究開発機構(QST)では、水素と反応しやすいレアメタルを使わずに、水素と反応しにくい金属同士を組み合わせて水素吸蔵合金を作るという、常識にとらわれない新発想で材料開発を進めた。このような新発想を実現する上で、超高圧・高温の世界は、大気圧付近では想像できないような反応が進行する理想的な環境と言える。

一方、未知の反応がどのくらいの圧力や温度にすれば進行するのかを知ることは容易ではない。

そこで、医療用エックス線の1000万倍の明るさに達する放射光X線を使って反応が進行する様子を「観ながら」新材料の探索を進めた。

その結果、安価な汎用金属の代表であるアルミニウムと鉄の合金が、7万気圧、650度C以上の超高圧・高温環境下で水素を取り込み、金属と水素の化合物(以下、水素化物)を作ることを世界で初めて発見した。

この水素化物はアルミニウムと鉄、水素の各原子を3対1対4の割合で含んでおり、常温常圧下に取り出すことができる。

さらに実用の温度に近い150度Cに加熱すると、水素を放出させることができ、その量は合金1グラムで0・3リットルに達する。

レアメタルを含んでいないにもかかわらず、ランタン・ニッケル合金やチタン・鉄合金といった実用材料と同程度の量の水素を蓄えることを示した。

現時点ではこの合金に水素を取り込ませるために7万気圧以上の超高圧の水素が必要だ。しかし、水素の取り込みを阻害している合金の表面酸化膜の生成を抑えることができれば、実用的な圧力でも水素吸蔵が可能であることが分かってきた。今後、水素吸蔵の圧力を下げる技術を開発し、建物などの定置の水素貯蔵への利用を目指す。

さらには、水素で走る自動車に搭載できるようになることを期待している。(木曜日に掲載)

量子科学技術研究開発機構(QST)量子ビーム科学部門 関西光科学研究所 放射光科学研究センター 高圧・応力科学研究グループリーダー 齋藤寛之

放射光X線を利用した高温高圧合成、特に機能性新規水素化物の探索を中心に研究を進めている。博士(工学)。