ドルに対し急速に進んだ円安。海外収益が円換算でかさ上げされ、輸出製品の価格競争力アップにもつながり日本の輸出型製造業にとって追い風だ。ただ生産拠点の海外シフトが進んだ結果、総じて以前よりメリットは小さくなった。またロシアのウクライナ侵攻によって原材料・エネルギー価格が上昇する中での円安は、海外から日本への調達コストの増加に拍車をかける。産業分野ごとに円安の明と暗を追った。

【自動車】サプライヤーの経営圧迫、供給網安定が最優先課題

乗用車メーカー各社は円安の恩恵を受ける。2022年4―6月期連結決算は、ドルに対する円安などの為替に関する要因が、営業利益を7社合計で約3800億円押し上げた。各社は23年3月期の業績予想で想定為替レートを1ドル=120―130円に設定しており、足元のドル円相場からすると上振れ余地がある。

一方、円安で原材料や燃料などの輸入価格が上昇。サプライヤー各社の経営を圧迫している。トヨタ自動車の幹部は「個社のもうけではなく、サプライチェーン(供給網)の安定が最優先課題」と断言。電力やガスなどのエネルギー代も含め、同社がコストの上昇分を負担する新たな支援策を打ち出した。

またトヨタは日本製鉄と車用の鋼材を値上げすることで合意。部品各社に支給する10月―23年3月分の鋼材の価格交渉では、過去10年で最大となる大幅な値上げで妥結した。

こうした支援を含めトヨタは、23年3月期の業績予想で資材高騰の影響が1兆7000億円もの営業減益要因になると見込む。また日産自動車は23年3月期に原材料価格や物流費の急騰で2570億円、ホンダは原材料価格高騰などで1460億円の営業利益の押し下げを織り込む。

国内では原材料高の影響を車両価格に転嫁する動きも広がる。三菱自動車は8月にミニバン「デリカ」の価格を約2%引き上げた。装備の変更を伴わない価格改定はここ数年実施していなかった。SUBARU(スバル)やマツダも一部車種で値上げに踏み切る。

【電機】コスト増分、製品価格へ転嫁

日立製作所、パナソニックホールディングス(HD)、三菱電機、東芝の現在の想定為替レートは1ドル=120―130円で、現在の円安傾向が続けば連結業績にプラスに働く。ただ、「家電、空調などの事業は中国からの輸入が多いためネガティブ」(パナソニックHD)と個別事業での影響は避けられない。「世界で事業展開しているため為替相場が大きく変動しないことが肝要」(日立製作所)と警戒感を示す。

その中で、円安を好機と捉え柔軟に対応する事例も出てきた。日立は国内生産する家電の売上高に占める輸出比率は22年4月頃に6―7%だったが、22年度中に10%程度に引き上げ、海外での販売増を狙う。

一方、円安によるデメリットへの懸念も高まる。「サプライヤーが海外調達品や素材を使う場合は値上げ要請が想定される。エネルギー価格がさらに高騰することも懸念される」(東芝)。半導体メモリーを国内生産するキオクシアホールディングスは「製造設備や材料の購入価格、後工程の海外工場への生産委託コストの上昇」をデメリットに挙げる。業界各社はコストの増加分を製品価格へ転嫁し対応する考えだ。

また「今後、円高に振れる局面も想定し、通貨オプション取引など為替ヘッジを行っている」(ルネサスエレクトロニクス)と、為替変動の影響の軽減を図る動きもある。

【工作機械】資材調達・物流コスト増

工作機械メーカーにとって、基本的に円安進行は業績にプラスだ。ただエネルギーや輸送、部材価格が高騰する現在の環境下では、かつてのように大きな恩恵が得られにくい状況となっている。

DMG森精機は為替のプラス効果よりも物流費用増加のマイナス影響が大きい。対応策として価格転嫁を進めており、「今後利益率は改善する見込み」(DMG森精機)。

工作機械の多くが国内製のオークマも円安は「メリット、デメリットの両面がある」。現状は期初の想定レートより円安で推移しており、海外からの資材調達費が上がり、国内販売の製品は利益が圧迫される状況。コストアップ分は「社内努力で極力吸収していく方針」(オークマ)だ。

【建機】通期見通し上方修正 価格競争力も向上

コマツは22年4―6月期連結決算で、円安が営業利益を200億円押し上げた。「売上高の85%が海外であり、1円円安で40億円の営業増益要因になる」と小川啓之社長は説明する。日立建機も同様に円安効果が営業利益を87億円押し上げ、通期業績見通しを上方修正した。コマツは想定為替レート1ドル=118円の前提を変えておらず、現状の円安が続くなら今後、業績予想を上方修正する可能性は高い。

円安で輸出環境は大幅に改善され、価格競争力も上がる。半面、鋼材価格を筆頭に、部品調達コスト増などのマイナス要因も指摘される。「世界各地の製造拠点や調達先などと連携しながら製造や部品の相互融通にも取り組み、原価低減を図る」(日立建機)としている。

【鉄鋼】海外市況低迷、国内優先

鉄鋼業界は海外の鋼材市況価格が低迷しているため、円安下であっても輸出には慎重だ。JFEホールディングス(HD)の柿木厚司社長は「国内の大口顧客向け『ひも付き価格』の引き上げを優先したい」と強調する。一方、足元で「原料炭価格が下がっており、(調達費増の要因である)円安のマイナスインパクトは和らぐ」との見通も示す。

日本製鉄が手がけるシームレスパイプ

こうした中でも日本製鉄は、ガス開発などに欠かせない中東向けシームレス(継ぎ目なし)パイプが伸びている。ロシア・ウクライナ問題の長期化によるもので価格は市況平均よりも高い。「(耐腐食性を持つ)13クロムなど高級パイプはフル生産が続いている」(森高弘副社長)と業績への寄与を期待する。

【化学】業績にプラス傾向も M&Aなど多方面に影響

輸出比率や海外比率によるが、円安は化学各社の業績にプラスへ働く場合が多い。大手企業の多くは通期の為替レートを1ドル当たり125―130円と予想。ドルに対し1円の円安により年間で、三菱ケミカルグループは11億円、住友化学は30億円、旭化成は16億円、三井化学は9億―10億円の増益影響を見込む。

輸入する原燃料価格や海外子会社の費用は上昇するが、輸出品の売価や海外子会社売上高が円換算で増えるためだ。住友化学は南米農薬の売価上昇と円安が相まって、健康・農業関連事業は4―6月期に大幅増益だった。

ただ、「足元の急激な円安進行で、原燃料高や受払差などへの影響を精査している。投資や調達、M&A(合併・買収)など多方面に影響が懸念される」(三菱ケミカルグループ)との声もある。

対策として「機動的な為替予約の実施や、ドル建ての原料購入を増やすなど取り組みを進める」(住友化学)、「円安による原料価格の上昇には、値上げに努めて対処する」(三井化学)とする。