デジタルは業務を効率化し、生活を便利にしている。その一方でICT(情報通信技術)関連の消費電力が増えている。あらゆるモノがセンサーとなるIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)、動画配信がさらに普及すると消費電力は“爆発的”に増加し、企業の温室効果ガス排出量削減の努力が吹っ飛んでしまう。今、デジタルと気候変動対策の両立が問われている。

通信量増で50年857倍

米グーグルは2023年、同社にとって日本初となるデータセンター(DC)を千葉県印西市に開業する。親会社のアルファベットの最高経営責任者(CEO)も務めるスンダー・ピチャイ氏は岸田文雄首相と会談し、総額1000億円を日本に投資する計画も伝えた。

グーグルの印西市進出が明らかになった19年当時からエネルギーも関心事だった。同社は17年から再生可能エネルギー100%での事業運営を実現している。印西市でも再生エネを利用できるのか、関係者の関心を集めていた。

再生エネ電気を使うDCの計画が相次ぐ。NECは9月、再生エネを使ったとみなせるグリーン電力証書や国の非化石証書を活用し、“実質・再生エネ100%”で運営するDCを23年に神奈川県、24年に神戸市に新設すると発表した。

京セラコミュニケーションシステム(京都市伏見区)は北海道石狩市で再生エネを直接、利用するDCの開業を目指している。19年に公表した計画によると、太陽光や風力などの各発電所から電気をDCに直送する。また、冬にためた雪を夏、DCの冷房にも使う予定だ。経済情勢の変化によって計画が遅れているが、“生・再生エネ100%”の実現に向けて調整を続けている。

同社GX事業開発部の尾方哲部長は「再生エネ普及に貢献する」と意義を強調する。DCが電気の利用先となることで、地域での再生エネ発電所の増設を支える。また、取引先の二酸化炭素(CO2)排出量を気にする企業が増えており、再生エネ100%を評価して同社のDCと契約する顧客獲得を期待する。

再生エネ利用は営業面だけでなく、環境対策としての効果もある。DCでは情報を処理するサーバ以外に機器が発する熱の冷房にも電気を必要とする。また、データをDCへ送る通信機器などネットワーク分野も電力を消費する。社会のデジタル化に伴って通信量が急増しており、電力消費の拡大が脱炭素のさまたげになる恐れがある。

科学技術振興機構(JST)が21年に発表した「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響」によると、現状の技術のままだと国内のDCの消費電力は18年の140億キロワット時が、30年には900億キロワット時へと6倍に増える。さらに50年には12兆キロワット時と857倍へ“爆発的”に増加する。ネットワーク分野も30年に4倍の930億キロワット時、50年に390倍の9兆キロワット時へと跳ね上がる。

日本全体の消費電力は年1兆キロワット時弱なので、現時点でICTの消費量が大きいとはいえない。ただ、手を打たないとICTの電力消費に伴う温室効果ガス排出量が増え、企業が工場やオフィスで排出を減らした努力が帳消しになる。

各社で技術革新進む

爆発的な増加を防ぐための技術革新も進む。富士通は9月、伝送容量あたりで世界最小の消費電力に抑えた光伝送技術を開発したと発表した。データの通信能力の向上と水冷技術の活用でネットワーク分野を省エネ化する。

ソニーグループが開発するAIを搭載した画像センサー

ソニーグループはAIを搭載した画像センサーを開発した。撮影した画像をAIが処理し、必要な情報に絞ってDCへ送信する。撮影したままの画像データを送るよりも、ネットワークの負荷やDCでの処理が減って消費電力を抑えられる。

また、NTTが研究する通信路を電気から光に置き換える「光電融合デバイス」も低消費電力技術として期待がかかる。ICTの電力問題を認識することが技術革新を促し、デジタル社会と脱炭素を両立させる。

動画広告など規制の可能性も/国立情報学研究所教授・佐藤一郎氏

通信量が増え続けてICTの消費電力が増大すると、どのような影響が出るのか。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は電力供給が不安定になり、通信に制限や規制がかかると指摘する。課題や対策を聞いた。

―まず、ICT関連の電力消費量の現状を教えてください。
  「実はここ10年間、DCの消費電力はそれほど増えていない。1台の物理サーバを複数台のように利用する仮想化と冷却技術の進化によって省電力化に成功した。しかし仮想化はやり尽くし、冷却技術も極限まで来ており、効率化は限界だ。データ量と計算量が増えており、現状の技術のままではICT全体の消費電力は増加する」

―消費電力が増えることでの影響は。
 「DCとネットワーク分野の消費電力は国内全体の数%だが、10%を超えると産業や社会の電力供給に支障を来す。何らかの手だてを打たないと将来、通信量や計算量の制限が視野に入るだろう」

国立情報学研究所教授・佐藤一郎氏

―通信量が増加している理由は。
 「世界的に通信量は年2割以上のペースで増えている。主な要因は動画配信によるもので、休日も通信量が増えている。日本でも傾向は同じだ。また企業などのウェブページのデータ量も大きくなっている。動画広告を表示すると、僅かずつのデータ量の増加であっても、積み重ねると消費電力を増やす。早晩、ネット広告が規制されてもおかしくない」

―AIや暗号通貨など新しい技術も影響していますか。
 「AIを支える機械学習は高機能GPU(画像処理半導体)を使うが、そのGPUは電力消費量が大きい。AIは電力消費以上に社会の効率化に寄与しているのか問われるだろう。メタバース(仮想空間)もGPUを使うので消費電力が多い。暗号通貨は承認作業のマイニングに電力を使う。言ってみれば暗号通貨の価値は消費電力だ」

―消費電力の増加に歯止めをかけるには。
 「データ量が増えた場合、例えば4倍の帯域にするために4本の光ファイバーを敷設するが、これだと消費電力は4倍に増える。光ファイバー1本の通信帯域を広げるなど、消費電力当たりの通信帯域を広げることに注力すべきだ。DCはブレークスルー技術が求められる」

―デジタル社会と脱炭素を両立するには。
 「ネットワークやコンピューター分野がほかの産業や社会の効率化に貢献し、効果として温室効果ガスの排出を減らすことが求められる。いくら効率化に寄与しても、排出量が大きければ社会全体にマイナスとなる。ICTが環境負荷を減らせているのか、シビアに問われるだろう」(編集委員・松木喬)