政府は将来のクリーンエネルギーとして期待される核融合発電の実用化に向けた議論を本格化する。発電を実証する「原型炉」の建設を当初計画より5年間前倒す方向で開発ロードマップを更新する見通し。4日にも開かれる有識者会議で詰める。米国や英国、中国など諸外国が官民一体の取り組みを加速する中、産業化を見据えて、国際的な競争優位を確保したい考えだ。(小林健人)

9月末に初めて開かれた核融合戦略策定に向けた有識者会議。内閣府の統合イノベーション戦略推進会議のもと、産業界に加え、量子科学技術研究開発機構(量研機構)や核融合科学研究所などから識者が参加した。論点は「産業化」だ。

核融合発電は太陽のエネルギー運動を再現したシステム。重水素と三重水素をプラズマ状態でぶつけ、生じた熱で発電する。二酸化炭素(CO2)を排出せず発電でき、次世代エネルギーとしての期待は大きい。

現状、最も進んでいるのが国際プロジェクトの国際熱核融合実験炉(イーター)。日本企業はイーターへの各種部品の納入に加え、量研機構が那珂研究所(茨城県那珂市)で稼働する核融合実験装置「JT―60SA(SA)」で製造ノウハウを蓄積してきた。文部科学省の核融合・原子力国際協力担当の稲田剛毅研究開発戦略官は「核融合炉に必要な部品を一国ですべて揃えられるのは日本だけだ」と強みを明かす。

諸外国は活発に動く。英国は10月初旬、2040年までに建設を始める核融合発電炉の建設予定地にノッティンガムシャー州を選出したと発表。米国は核融合パイロットプラント建設に向け、官民協力で加速することを表明した。25年に運転を始める予定のイーターの建設が約77%完了したことを受け、協調から競争という新たな段階に入った。民間投資も急増。21年の民間投資は約3400億円以上に上り、1000億円以上の資金調達を行うスタートアップもあるが、ほとんどが海外だ。

日本はイーターが燃料の重水素と三重水素を燃焼する実験を始める35年に原型炉建設の移行判断をする計画だが、前倒し案では移行判断の時期を変更せず、原型炉の製造設計を早めた上で短縮。原型炉の建設を35年のイーター燃焼実験直後に着手し、45年頃の運転開始を目指す方向だ。

課題は多い。文科省の「原型炉開発総合戦略タスクフォース」の議論では「開発を加速させる以上、従来計画よりもリソースを投入していくことは必要」と予算増額を指摘する向きもある。足元では大学でのプラズマ研究に占める核融合研究のウエイトは減少。博士課程進学率も低下傾向だ。産業化を見据え、研究開発を支える多くの専門人材も必要だ。

核融合の関連部品を手がける京都大学発スタートアップの京都フュージョニアリング(東京都千代田区)の長尾昂代表は「プラント技術やマイクロ波など、核融合に関連する分野の人材を採用することで対応している」と明かす。産業化への号砲が鳴り国際競争の時代が幕を開けた核融合。日本が競争から出遅れないためには、産学官が一体となり、核融合に本腰を入れる意思表示が欠かせない。