理化学研究所でロボットによる生命科学系実験の自動化が進んでいる。汎用ヒト型ロボット「まほろ」で細胞培養に必要なピペット操作や細胞剝離操作などを行う。人手よりも再現性が高く、研究室で策定したプロトコル(実験手順)をそのまま多数のロボットで実行し、安定した細胞供給が可能になる。再生医療のデファクト(業界標準)を押さえれば、細胞製品の研究と生産が直結する研究生産プラットフォームになり得る。(小寺貴之)

「眼の再生医療に必要な細胞数は心臓などに比べて1―2ケタ少ない。ロボットで研究と臨床を直結可能」と理研の神田元紀上級研究員は説明する。理研は科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業などで研究の自動化を進めている。人工知能(AI)技術で実験ターゲットを定め、ロボットで実験する。実験の計画と実行を機械にやらせる試みだ。人手ではできない実験精度で、効率的に条件を絞り込む。

ロボット実験のイメージ(理研提供)

この実証モデルとして人工多能性幹細胞(iPS細胞)から網膜色素上皮細胞(RPE細胞)への分化誘導を選んだ。RPE細胞シートは滲出型加齢黄斑変性の治療に用いられる。iPS細胞からRPE細胞への分化は40日間の培養が必要で、分化誘導効率は匠が行うと8割以上、普通の人は大きくバラつく。

そこでロボット実験ではバッチベイズ最適化というAI技術を用いた。薬剤濃度や添加期間、細胞剝離の強度など、実験条件を七つのパラメーターに直し、分化誘導効率を最大化するようパラメーターを最適化する。1回の実験で48条件・40日間培養し、パラメーターを調整して再実験する。これを合計3回繰り返した。結果、分化誘導効率が91%まで高まった。

RPE細胞は分化誘導後に純化という工程で未分化細胞を取り除く。そのため分化誘導の効率が細胞の歩留まりや細胞シートの生産コストを左右する。

同時にロボット実験を通して品質の安定する条件が求まる。人の手技によるバラつきが入らず、同じロボット実験システムなら、そのまま操作を再現できる。研究で求まった条件を複数のロボットに展開して供給量を拡大できる。再生医療は患者一人ひとりへの個別化対応と安定生産が課題だった。

未来社会創造事業代表者の高橋恒一理研チームリーダーは「実験自動化技術の高度化とスケール化を進め、将来的には医療現場で多くの患者さんを救うことにつながれば」と力を込める。同事業では全ゲノム臨床診断の全自動化やAI・ロボット連携技術の確立、並列自動化システムの確立を進めている。汎用ヒト型ロボットが並ぶロボティックバイオロジープロトタイピングラボを建設する。

iPS細胞に限らず培養の難しい神経系や臓器などの組織の実験に広げられれば生命科学全体を支えるインフラになる。研究と生産がつながり、AI技術のように研究が事業に直結する領域になる。海外の研究者は研究計画と一緒にビジネスモデルも考え投資家との対話を始める。日本の研究者にはなじみはないが、眼の再生医療では直結モデルを実証できた。これが奔流となるか注目される。