製薬業界でデジタル変革(DX)の先頭集団を走る中外製薬。2019年に「デジタル戦略推進部」を発足後、わずか3年で浮間工場(東京都北区)をデジタル化するなど着実に成果を挙げている。IT業界から転身し、改革を主導する上席執行役員の志済聡子デジタルトランスフォーメーションユニット長に聞く。(藤木信穂)

志済聡子デジタルトランスフォーメーションユニット長

―デジタル化に慎重な業界で、いち早く改革が進んだ理由は。
 「医薬品の開発の成功確率が上がらない中で、コストを抑えつついかに早く世の中に提供するか。その長年の課題をデジタルで解決しようと全社を挙げて取り組んだ。DXは5年、10年かけて行うものでもない。一定の熱量とスピード感を持って進めないと浸透しないのではないか。トップと役員が一新するタイミングもよかった」

―創薬で人工知能(AI)やデータの活用を進めています。
 「AIを使った独自の抗体創薬支援技術や画像解析により、創薬の精度が向上した。子宮内膜症の痛みの評価や血友病など八つの臨床開発プロジェクトではデジタルバイオマーカーを用いている。また一部で始まったが、今後、臨床試験に医療ビッグデータが使われるようになれば、次の大きな成果になる」

―工場のデジタル化のほか、10月に完成した新研究拠点にもロボットを導入します。
 「日本IBMと連携し、バイオ医薬品をつくる浮間工場にデジタル基盤を構築した。今後、残りの2工場にも展開する。新拠点の中外ライフサイエンスパーク横浜(横浜市戸塚区)にはロボットなど新たなラボオートメーションを入れる。すべてのバリューチェーンをDXで効率化する」

―アイデアを具現化する仕組み作りや人材育成の効果は。
 「DXの観点から新たな価値を創造するデジタルイノベーションラボにはこれまで400件以上のアイデアが集まった。サイエンスとデジタルが分かる“二刀流”を目指せと言ってきたが、データサイエンティストを含む100人超のデジタル人材が育っている。皆勉強熱心で意識が変わってきたと感じる」

―目指す姿は。
 「DXを成長戦略の中核に位置付け、『人・文化を変える』段階を終え、現在『ビジネスを変える』ステージに突入している。さらに24年以降の『社会を変える』フェーズ3を経て、30年には新薬をグローバル市場で毎年発売していることが目標だ。DXはこれを実現する一つのドライバーの役目を果たす」