富士通は専門知識がなくても量子計算機などの次世代コンピューターを利用できる新しいソフトウエア構想「コンピューティング・ワークロード・ブローカー」を打ち出した。これに基づき、量子計算と高性能コンピューティング(HPC)を組み合わせた量子・HPCハイブリッド計算技術を8日発表した。ハードウエア層だけでなく、上位の各アルゴリズム(計算手順)までを自動で組み合わせて最適計算を可能とする技術は世界初だとしている。(編集委員・斉藤実)

量子・HPCハイブリッド計算技術は利用者の解きたい問題に応じて適切な計算資源を人工知能(AI)が自動で選択し、高速で高精度な演算が可能。まずは創薬や新材料開発で利用される物質の特性を計算で明らかにする量子化学計算を対象に開発した。

一つの計算アルゴリズムでハードウエアを組み合わせて使う従来技術に対し、今回の新技術は「量子アルゴリズムやHPCアルゴリズムといった上位層で複数のアルゴリズムを自動的に組み合わせる」(中島耕太富士通コンピューティング研究所シニアディレクター)ことが特徴だ。

ハードウエアは世界最大級の39量子ビットの量子計算シミュレーターと、スーパーコンピューター「富岳」の中央演算処理装置(CPU)「A64FX」を搭載したHPC機「プライムHPC FX700」を活用した。

カギとなる技術は量子・HPCアルゴリズム判別と計算時間推定の二つ。量子化学計算のアルゴリズムは精度の高い解を得るまで何度も反復計算する必要があり、原子間の距離の変化に伴い、どのアルゴリズムが最適かの判断は難しかった。

これについては分子に対するアルゴリズムの収束の様子を分析することで、量子もしくはHPCのいずれかのアルゴリズムを用いると精度が高いかを推定する技術を開発した。

HPCアルゴリズムが不得意とする問題では、解を算出するまでに特定のパターンが検出されるため、問題に対して試験的にHPCアルゴリズムで前処理を行うことで、最適なアルゴリズムの判別が可能となる。

また、量子化学計算では無数に存在する分子構造ごとの推定が難しく、解を得る時間や費用の見積もりが困難。これについては独自の適応型AI技術を用いて、分子構造とアルゴリズムの反復計算と計算時間の関係性を学習することで、事前に計算量を推定可能なAIモデルを構築した。精度の高い解が得られるまでの計算量を基に、必要な時間や費用の算出を実現している。

今後は技術検証を通じて、高度なコンピューティングとソフトウエアを組み合わせたサービス群「CaaS」にも適用する計画。

ヴィヴェック・マハジャン執行役員シニア・エグゼクティブ・バイス・プレジデント(SEVP)は同日の会見で「今回の技術はHPCや富岳などで培った実績があったから実現できた」と世界初を達成した背景を説明。その上で「2023年度に完成予定の量子計算機の実機や量子化学計算以外も含め、幅広い用途に展開できる」と期待を込めた。