世界のモビリティー産業がカーボンニュートラル達成に向けてアクセルを踏んでいる。しかし、エネルギー不足や半導体の供給不安などを背景に市場の見通しを見極めることは難しい。そこで、モビリティー産業の動向を調査するS&P Global mobilityのアナリストたちに未来を見通す上で持つべき視点などを語ってもらう。

米国のバイデン政権において、電気自動車(EV)の購入補助策を適用する際、北米で生産したEVや電池を税制面で優遇する「インフレ抑制法」が成立した。これにより、世界の2大自動車市場である米国・中国の動向見通しが大きく変わり、日系自動車メーカーも戦略の再構築が迫られている。S&P Glibal mobilityのグローバル自動車予測担当バイスプレジデントのヘナー・レーネ 氏に2大市場の見通しが語る。

米国と中国の市場の現状は大きく異なる。米国は買い換え需要が、中国は新規購入が推進要因だ。米国市場は成熟しており、ライトビークルの新車販売は、2016年に約1,750万台と、ピークを迎えた。対照的に、中国はその規模にもかかわらずいまだに勢いを増しており、漸進的に成長している。17年以降、排出基準の急速な変化やクレジット制度、新型コロナウイルス、半導体危機により引き起こされた後退局面をよそに、中国は今もさらなる成長軌道にある。30年までにライトビークルの新車販売は3,000万台に到達すると見られる。

また、米中市場はセグメント構成も大きく異なる。米国は依然として燃費に問題のある大型SUVやピックアップトラックが優勢だが、中国のユーザーはより小型な車を求めており、それは排出量の観点でより厳格な規制がなされる。中国市場は“ピュアEV”、すなわちバッテリー式電気自動車(BEV)の世界最大の市場で、22年累計新車登録台数の18%をBEVが占めている。反対に、米国における22年累計新車登録台数に対するBEVのシェアはまだ約5%に留まる。ただ、追い上げに向けた野心的な目標を掲げている。

ヘナー・レーネ 氏

バイデン政権下で成立したインフレ抑制法であるIRAは、米国の国内産業が独自の生産体制を構築・拡張する機会を阻害しようとする参入者から国内産業を保護することを目的としている。現時点では、この新たな規制の影響はまだきわめて限定的だ。

22年には米国で約136車種のBEVが販売される予定だ。これらのうち、新たな補助金制度の対象になるのは最大22車種のみ。規制の効果が現れるのは中長期的であり、完成車メーカーが生産とバッテリーのバリューチェーンを現地化するか、他地域でより安価に生産することで補助金なしでも競争力を維持することを目指す場合である。

日系自動車メーカー各社は、この新法の観点から自社の将来の米国戦略を再評価する必要がある。さまざまなブランドが、日本でEVを製造して米国に輸出するか、米国で製造するかを計画していたが、バッテリーコンポーネントの現地調達は考えていなかった。戦略は見直しの必要がある一方で、米国政府への対処策を他に見つけるとまではいかなくても、検討はしなければならないだろう。あるいは、韓国、中国、そしておそらくEUから 世界貿易機関(WTO)の苦情申し立てがあれば、この法律の構成はまた変わることになるかもしれない。


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