情報開示競争見据え戦略議論

大手損害保険グループ3社が統合報告書などで人的資本の可視化に乗り出している。保険業界は形のあるものを扱っておらず、人で成り立つ商売。他業種に比べ、とりわけ人材育成に力を注ぐ。3社は人的資本の重要性を世に知らしめた「人材版伊藤レポート」に基づき、経営戦略と人材戦略の連動を意識した情報発信に努める。その上で、どのようなデータを示せば受け手に伝わるのか模索している。

SOMPOホールディングス(HD)は、2021年度に始まった中期3カ年計画で「安心・安全・健康のテーマパーク」といったパーパス(存在意義)を掲げる。会社のパーパスを社員に浸透させるため、社員一人ひとりの「MYパーパス」も重要視。MYパーパスの追求と働き方改革の推進で社員のエンゲージメント(貢献意欲)を高め、それが人的資本の向上や将来的な財務価値の拡大につながる絵を描く。

22年度の統合レポートから、こうした考えをビジュアルで示すことに取り組んだほか、社員へのアンケートに基づく「相関係数」を使った人的資本の可視化にも挑んだ。

SOMPOホールディングスが『統合レポー2022』で示した相関係数(SOMPOHDの従業員を対象にしたエンゲージサーベイ調査にもとづきSOMPOインスティチュート・プラスが分析)

例えばエンゲージメントスコアを縦軸に、上司と部下が1対1の面談で「MYパーパスについて話す機会がある」という質問項目の結果を横軸に置いたグラフを作成。このグラフの相関係数は0・72を示した。数値が「0・7―1・0」の範囲は強い相関関係を示唆するため、MYパーパスに基づく1対1の面談はエンゲージメントの向上に一定の効果があると捉える。

人的資本は数値で表すことが難しく、「今できることは、さまざまな活動が相互に関係し合っていることを指す相関を示すこと」(平野友輔サステナブル経営推進部長)。まだスタート地点に立ったばかりとし、次年度以降もアンケートの質問項目を変えるなどして自社の活動の効果を探っていきたい考えだ。

東京海上HDは、22年度から役員報酬を決める評価項目の一つに「社員エンゲージメント指標」を加えた。「非財務指標」として、統合レポートで開示した。同社は国内外のグループ会社で「カルチャー&バリューサーベイ」と呼ばれるエンゲージメント調査を行う。コロナ禍にあっても、20年度、21年度ともに5点満点中、4点台を維持し、比較的高いスコアを示した。役員報酬にも社員エンゲージメントを反映させることで、「一段と人的資本重視の経営を明確にする」(青木紳二人事部部長)狙いだ。

MS&ADインシュアランスグループHDは22年度から始まった中期4カ年計画にあわせ、経営戦略と連動した人的資本の情報を統合レポートで初めて開示した。同中計では共通価値の創造(CSV)・デジタル変革(DX)・グローバルの推進を掲げる。この計画に沿った人財戦略として、25年度までにデジタル人財7000人(21年度は2179人)、海外人財1200人(同1129人)の数値目標を示した。

同社は11月に人事・総務部や広報・IR、企画部門などからなる人的資本の情報開示を巡るワーキンググループを組成。「これから情報開示競争が激化する」(中川宏之人事・総務部部長)ことを見据え、戦略的な開示方法を議論していく。

3社ともまだ手探りながらも、世の中の動向に乗り遅れまいと最適な開示のあり方を探っている。