電気自動車(EV)のリチウムイオン電池(LiB)に使うリチウムの相場が一段と上昇した。足元では指標となる中国のスポット価格が年初比で約2倍高く、3カ月前比でも約2割高い。中国でEV販売が好調を続けるほか、出遅れていた米国でも販売台数が伸びて需要が拡大。ニッケルなど他の電池材料相場も底堅さがある。ただ、米国では税制優遇対象となるEVの電池材産地が限定されるなど、供給網の懸念要素も浮上している。

炭酸リチウムの中国スポット価格は、上海市でロックダウン(都市封鎖)が始まった2022年3月に上昇が一服したが、足元ではトン当たり56万元近辺と8月下旬比で約2割高い。19年の相場低迷時に上流開発が停滞したことに加え、コロナ禍以降の脱炭素に伴うEV需要の増大で、需給が引き締まる構造が続く。

欧州自動車工業会(ACEA)によれば、1−9月期の中国のEV販売台数は前年同期比89%増の287万台と堅調だ。出遅れていた米国も同69%増の56万台と伸び、同26%増の100万台だった欧州を増加率で上回り、裾野が広がる。

足元では中国経済の不調などで原料相場に下押し圧力がかかるが、リチウムの下値は堅そうだ。「22年度下期は金属市況が下がるとみるが、リチウムは下がりそうにない」(豊田通商の貸谷伊知郎社長)との見方がある。

リチウムと同様にLiBの正極材に使うニッケルのロンドン金属取引所(LME)相場も底堅さがある。ロシアの軍事侵攻後の高騰は収束したが、8月以降はトン当たり2万ドル台を維持し、コロナ禍前の同1万ドル台から水準を切り上げた。

ステンレス鋼の添加剤向けを含めインドネシアで増産が進むが、LiB向けなどの高純度品を扱うLMEでは「倉庫在庫が少なくタイト感があり、相場は堅調に推移すると思われる」(日本鉱業協会の納武士会長〈三井金属社長〉)との声がある。LMEのニッケル在庫は直近1年半で約8割減った。

ただ、電池材需給をめぐっては不安定要素も出てきた。米国で8月成立の「インフレ抑制法」ではEV購入の税制優遇が措置される一方、電池材の重要鉱物が米国または米国との自由貿易協定(FTA)締結国で一定割合調達されていることが対象要件となった。

対象の限定は日本の電池材料に逆風となり「今の時点では影響がかなり大きい」(住友金属鉱山の田中勝也執行役員)。詳細を検討中の米国に対し日本政府は意見書を提出しており、世界的な供給網の再編を含め行方が注視される。

一方、24年の米大統領選挙で立候補を表明したトランプ氏が勝利すれば、バイデン政権で進んだ脱炭素政策が後退する可能性もある。「バイデン政権の主張を鵜呑みにして過度な準備をすることはせず、長い目で(米国での電池材事業の)対応を考える」(国内商社)との声もある。

世界の電池材需要は長期的な増加が見込まれるものの、世界第2位の米自動車市場をめぐる混乱が市場の不確実性を高める可能性がある。


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