中小規模の新築建物に太陽光パネル設置を義務付ける方針を打ち出す東京都。戸建て住宅を含む義務化は全国初で、住宅の脱炭素化やエネルギー自給自足の試金石となる。2025年4月の開始を目指す制度骨格と事業者への支援策が固まり、いよいよ条例化に向けた議会審議に入る。川崎市も同様の方針を打ち出すなどこうした動きが波及し、ビジネスに新潮流をもたらす可能性があるだけに住宅関連業界の取り組みも加速しそうだ。(編集委員・神崎明子)

都は環境確保条例を改正し、中小規模の新築建物に太陽光発電設備の設置を義務付ける制度を創設する。実現に向けた条例改正案と支援策を盛り込んだ補正予算案を12月1日開会の都議会定例会に提出。可決後、2年間の周知期間を経て施行予定だ。

義務化の対象は、住宅を購入する個人ではなく、分譲や注文住宅を供給する大手住宅メーカー約50社とする点に特徴があり、パネルを標準装備する発想に近い。都内の住宅屋根への太陽光発電設備の設置割合は、19年度時点で4%程度にとどまっていることから、潜在性を都市の強みと捉えている。

ハウス各社向け301億円支援

「延べ床面積の合計が2万平方メートル以上」に網がかかり、都内の年間着工数4万5000件の半数程度が義務化の対象と見込まれる。事業者は日照などの立地条件をクリアした建物全体で設置基準を達成する仕組みで、電気自動車(EV)などの充電設備の整備基準も決まった。

都は、制度開始を見据え、準備や先行事例に取り組む事業者を積極的に後押しする方針で、ハウスメーカーなどへの支援に301億円を予算措置する予定だ。義務化の対象事業者には、制度に対応した住宅供給に必要な費用の半分を1億円を上限に助成。義務化の対象とならない中小企業や工務店の設計や施工技術向上についても100万円を上限に3分の2を助成する。

一方で住宅業界を悩ませるのは、顧客となる住宅購入者に脱炭素化の意義をどのように伝え、パネル設置を促すか。住宅供給事業者には「住まい手への環境性能の説明制度」が設けられるが「誰がどのタイミングで、どのように説明すれば設置を決断してもらえるか」と不安視する声もある。

資材価格の上昇で都内の住宅価格が高騰する中、さらなるコスト増への懸念も大きい。このため都では設置効果発信と経済的な支援策の双方を探ってきた。

「初期負担ゼロ」で訴求も

パネルの設置費用は一般的な出力4キロワットで90万円程度。都は光熱費削減効果により10年で回収可能、現行の補助金を活用すればさらに6年に短縮できるとはじくが、新たな負担軽減策も打ち出した。初期費用ゼロでパネルを設置する手法として、パネル設置は第三者が行い住宅所有者はリース料を払う方式や、屋根を電力販売契約事業者に提供し発電された電力を利用するといった手法を念頭に、これらを活用して設備を設置する事業者への助成も実施する。

こうした機運を先取りした動きは大手企業の間でも顕在化しつつある。野村不動産が杉並区で23年2月に完成予定の分譲戸建て住宅は、全区画に太陽光パネルを搭載。初期費用ゼロで太陽光発電設備を設置する仕組みとして、東京電力エナジーパートナーのプランを組み込んだ。同社はこうした住宅を首都圏で年間300戸相当の供給を目指すという。

住宅購入者にとって選択肢が広がることは歓迎される。ただ、事業者の費用で太陽光発電を設置する手法や収益モデルは実にさまざまで、責任の所在や保証の範囲といった実情を利用者が十分認知していないことへの懸念もある。メリット、デメリットを広く周知する重要性を指摘する声は少なくない。

設置手法が多様化するからこそ「一定の信頼性あるデータを都だけでなく、国や関係機関も積極的に開示すべきだ」。こう指摘するのは、住宅の省エネに詳しくZEH推進協議会の理事・事務局長を務める荒川源氏。今回の制度を契機に義務化の対象外である中小規模の工務店の間でも、太陽光発電設備の搭載を本格化することが見込まれる。「住宅購入者に提案する際には設置効果を施工実績に基づく客観的なデータで説明することが欠かせない。情報面での環境整備も検討してほしい」(荒川氏)。

小池知事「屋根で発電を当たり前に」

短期的利点にとどまらず、長期的な経済効果を強く訴求すべきとの見方もある。従来、太陽光発電は自家消費の余剰分で売電収入を得られる点で注目されてきたが、国の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の買い取り価格は年々下落。電気料金が高止まりする中、むしろ自家消費による家計防衛策としての側面が実感されつつあるからだ。自然災害時には電力を自給自足できる利点もある。太陽光発電は燃料費高騰の影響を受けないため、エネルギー価格の上昇が続けば、「長い目でみれば経済的。屋根で発電を当たり前にしたい」(小池百合子知事)との主張は、納得感を持って受け入れられる余地が大きい。

省エネ発揮へ施策再構築も

住宅産業に携わる関係者は、都が目指す「カーボンハーフ(2030年の温室効果ガス排出量を00年比半減)」に合致し、かつ分かりやすい支援策を求めてきた。

住宅メーカーなどで組織する住宅生産団体連合会が都に働きかけてきたのは、住宅にまつわる施策の再構築だ。省エネと自家発電を組み合わせてエネルギー収支をゼロに近づける「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」(ZEH)など高い省エネ性能を持つ住宅を促進するための既存施策との整理・統合を図り、設備導入や設置効果を最大化することや「支援策が建築主に公平かつ十分に行き渡ること」(住宅生産団体連合会住宅性能向上委員会ワーキンググループ)を重視する。

義務化を契機にアパートなど共同住宅の低炭素化の弾みとなることへの期待もある。大手メーカーでは、戸建て住宅を対象に「ZEH」を標準仕様とする動きが広がるが、事業性が重視される共同住宅版の普及促進は緒に就いたばかり。これを後押しする国の補助金制度があるものの「太陽光発電まで踏み出せない」のが実情という。

「条例改正を踏まえ、新たな制度への準備に着手する事業者を強力に後押しをする」と語る小池知事(18日、都庁=東京都提供)

こうしたなか都は、断熱性能や省エネを高めた住宅を「東京ゼロエミ住宅」と称し、普及を促す施策をすでに展開する。利用者からは「実質的に国の制度とほぼ同水準の支援を受けられる」との評価を得ているが、太陽光パネルの設置を促すため、制度施行に向けた一連の支援策には、集合住宅への補助上乗せも盛り込まれた。

ハウスメーカーからは「自家発電により確保した電力を有効に活用するための蓄電池導入とセットで、光熱費削減効果を入居者に訴求できれば、賃貸住宅経営の収益向上と脱炭素化の双方につながる」との期待の声も挙がる。