燃料価格高騰の余波で、再生可能エネルギー電気の価格も急騰している。価格上昇に耐えきれなくなり、販売を打ち切る小売電気事業者が出てきた。再生エネ電気の購入ができなくなり、通常の電気に戻した団体や入札ができない自治体も出てきた。自主的に再生エネ電気を利用する中小企業も増える中、脱炭素への意欲が価格高騰によってそがれるかもしれない。(編集委員・松木喬)

販売打ち切り、利用再開できず

「3月に再生エネ電気に切り替えたばかりだったのに」。地球環境戦略研究機関(IGES)の施設管理を担当する斎藤暁生氏は落胆する。契約していた小売電気事業者が6月、再生エネ電気の販売から撤退した。

IGESは環境政策を提言するシンクタンク。中小企業や大学などが再生エネ導入を推進する団体「再エネ100宣言REAction協議会(再エネ100宣言)」の運営機関の一つであり、「再生エネを率先して使う立場」(斎藤氏)だ。公益財団法人であるため行政を参考に2021年11月、入札によって再生エネ電気を購入する小売電気事業者を選んだ。

その後、ロシアのウクライナ侵攻や円安があって燃料価格が急騰し、電気の市場価格も上昇した。太陽光や風力などの再生エネは燃料を必要としないので影響しないはずだ。しかし、小売電気事業者の多くは発電設備を持たず、固定価格買い取り制度(FIT)の認定を受けた再生エネ発電所から電気を仕入れている。制度上、調達費は市場価格と連動するため、再生エネ電気の価格も跳ね上がった。IGESと契約した小売電気事業者も売るほど赤字が膨らみ、耐え切れなくなった。

「入札当時、再生エネであっても電気代が7%下がって喜んでいた」(同)と残念がる。6月以降、撤退した小売電気事業者に代わって大手電力会社が供給を継続する最終保障供給が適用され、価格は1・2倍に上がった。それでも市場の上昇率よりも低かったが、制度変更で「1・2倍」が撤廃されて価格は上昇を続けている。「早く再生エネの利用を再開したい」(同)と思いを語る。

神奈川県が共同オークション、入札は堅調維持

神奈川県も価格高騰に頭を悩ます。30年度までに県の施設の電気すべてを再生エネにする計画だが、22年度は入札を開いても応札する事業者が現れずに不調が続く。再生エネ電気の価格が高騰し、県が設定した価格が低くなり過ぎたためだ。

一方で明るい材料もある。県はエナーバンク(東京都中央区)と協力し、再生エネ電気を購入したい企業がまとめて入札に参加する共同オークションを実施している。23年4月からの切り替えを希望する企業を募集したところ、前年並みの参加があった。脱炭素への意識の高まりで再生エネを希望する企業が増えており、「少しでも電気代が下がるのであれば、オークションを活用したいと考える企業が多い」(県担当者)という。小売電気事業者も供給量が増えるので市況の影響を少しは緩和できる。

再生エネ電力の利用を再開できた山中製菓。購入への依存を下げるため太陽光パネルを設置する

山中製菓(岐阜市)は“再生エネ電気難民”を回避した1社だ。初めに契約した小売電気事業者が再生エネ電力の供給を停止したため7月から最終保障供給に移行したが、UPDATER(東京都世田谷区)と契約して11月から再生エネ電力の利用を再開できた。

山中製菓は商品の菓子製造に電気を使う。もともとはガスで調理していたが、燃焼で室温が40度Cになるので窓を開けることがあった。網戸があっても虫が混入する可能性はゼロではなく、作業環境としても悪い。そこで07年、電気の料理器具を導入してオール電化に踏み切った。

品質管理や職場環境の改善だけでなく、室温が低下して冷房の電気代も下がった。さらに二酸化炭素(CO2)排出量を計算してもらうと削減されていた。中西謙司社長は「良いことばかりだった」と手放しで喜ぶ。

しかし11年の東日本大震災後、排出量が増加に転じた。原子力発電所が停止し、火力発電の稼働が増えたためだ。「環境に悪いことをしているようだった」(中西社長)と罪悪感を覚えた。小売電気事業者の参入を待って19年にCO2ゼロ電気、21年5月からは再生エネ100%電気の購入を始めていた。

今回の小売電気事業者の再選定で学びもあった。11月からは電気代が時間帯で変動するプランを選んだ。同社が電気を多く使う平日の日中ほど市場価格が安いためだ。逆に電気を使わない夜間や休日の価格は高い。「固定価格が安いと思い込んでいたが、節電努力が報われにくい。自分たちの操業に合ったプランがあると分かった」(同)という。

さらに工場に太陽光パネルを設置し、発電した電力を操業の一部に使うことを決めた。購入だけに依存すると、今後も価格急騰のリスクがあるためだ。太陽光パネルを自家発電として利用すれば、燃料費が変動する心配もない。

努力報われる仕組みを 中小には明確なメリット少なく

経済産業省によると小売電気事業者の撤退後にも電力供給を継続する最終保障供給は11月1日時点で4万3585件で、1年前の100倍に急増した。また、帝国データバンクによると6月8日時点で小売電気事業者の1割の69社が契約を停止し、撤退や廃業も35社あった。これらのうち再生エネ電気の販売を主体とした事業者数は不明だが、影響が出ているはずだ。

現状、脱炭素に意欲的な企業が自主的に再生エネ電気を購入している。上場企業はESG(環境・社会・企業統治)を重視する投資家から評価されるので、価格上昇を許容できる可能性がある。一方、非上場の中小企業には明確なメリットは少ない。山中製菓の中西社長は「商売に生かせるとモチベーションになる」と語り、再生エネ利用が評価され、優先的に調達先に選ばれるような取引を望む。

再生エネ100%を目指す団体「再エネ100宣言」には289の中小企業や大学などが参加する。小売電気事業者の供給停止や価格高騰が続くと、脱炭素への機運がしぼみかねない。燃料費の高騰に左右されない再生エネの供給網や、努力している企業が報われる仕組みが必要となりそうだ。