住友電気工業は自動車事業の収益力回復を目指す。新たに策定した2023―25年度中期計画では、25年度に自動車事業の営業利益を1100億円と、過去最高の16年度の986億円を上回る数値を設定した。自動車生産がコロナ禍や半導体不足からようやく復調しつつあり、主力製品の自動車ワイヤハーネス(組み電線)の需要が急回復している。利益率改善と電気自動車(EV)シフトなどに向け、生産性向上と技術開発を加速する。(大阪・田井茂)

「完成車メーカーからは5月以降大きな発注が内示されている。顧客は半導体調達にようやくめどが付きつつあるのではないか」。住友電工の井上治社長はこのように、ワイヤハーネスを中心とする自動車部品の需要回復に手応えを強める。トヨタ自動車が23年度の世界生産計画を過去最高の1010万台(トヨタと高級車ブランド「レクサス」)とするなど、完成車メーカーの増産が見込まれる。

住友電工は20年4―9月期に各利益段階が赤字になるなど、自動車減産、原料や物流、エネルギーの高騰に翻弄(ほんろう)された。しかしコロナ禍やウクライナ危機などでも顧客への供給を切らさず関係を深めた結果、潜在需要が顕在化してきている。

連結売上高も23年3月期に初の4兆円台に乗せた。ただそのうち為替の円安効果が2700億円、銅原料上昇による電線への価格転嫁が500億円を占める。「4兆円はエポック(新たな段階)」(井上社長)だが、外的要因も押し上げた。30年度には自動車部品サプライヤー(供給メーカー)として有数な規模の売上高目標5兆円以上と高いハードルを掲げる。それには正味の実力強化やEV化など急速な変化への適応力向上が欠かせない。

米国や中国ではEVシフトが鮮明で、日系完成車メーカーは販売が苦戦している。日系メーカーとの結び付きが強いサプライヤーには、米テスラなどEV専業の顧客開拓に出遅れている大手も少なくない。

住友電工はEV化など自動車の変化を先取りする専任の開発部門を20年に設置するなど、危機感を持ち技術開発を急いできた。

ワイヤハーネスは車種ごとに仕様や量が多様で設計・製造と配線の省人化も難しい。電線を切り、端子を取り付けコネクターに差し込むまでは、かなり機械化した。コネクターやカバーの色を調べる検査などに自動化の余地が残る。人工知能(AI)による最適な配線手順の算出や、30年代にはデジタル変革(DX)で設計の完全自動化も目指す。人手がかかりコスト削減要求も強いワイヤハーネスの利益率向上は、生産の規模拡大と技術革新が両輪となる。

住友電工は電子部品や切削工具など高利益事業も擁するが、売上高の過半を占める自動車事業の改善が、質実ともに「メガサプライヤー」へ昇るカギを握る。

井上社長は「多様な製品とサービスで成長分野の事業機会を着実に捕捉する。変化に強い企業体質を築き、中長期的に企業価値を向上する」と、長期戦略を明示する。


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