東京大学の荒川泰彦特任教授とアイオーコア(東京都文京区)の角田雅弘研究員らは、量子ドットレーザーの耐久温度を160度Cに上昇させることに成功した。レーザー発振に必要な電流は43%減らせた。データ伝送を光配線に置き換える“光電融合”を自動車のエンジン周りなどの過酷な環境に広げられる。省エネと高度情報処理を両立させる。

量子ドットレーザーの量子ドットと量子ドットの間を障壁層で満たしてエネルギーの漏洩(ろうえい)を防いだ。エネルギーを効率的に光に変えられるため必要な電流値が下がり、高温での発振が安定化する。

素子中にはヒ化ガリウム中にヒ化インジウムの粒(ドット)が並んだ層を作る。量子ドット層のヒ化ガリウムをヒ化ガリウム・アルミニウムに置き換えて障壁層とする。ヒ化アルミはエネルギー準位が高いため、漏洩に必要なエネルギーが大きくなる。そのためアルミ比率を増やすほど漏洩を減らせる。

実験ではアルミ比率を2割とした。耐久温度が150度Cから160度Cに上昇し、電流を43%減らせた。今後アルミ比率を高めて高温耐性を引き上げる。

ヒ化ガリウムとヒ化アルミは結晶の格子定数が近く、結晶を歪ませない。そのためレーザー素子の薄膜積層の元素比率を調整するだけで実現できる。製造工程を変えずに済み、コスト競争力がある。自動車エンジン周りの高温環境や第5世代通信(5G)の屋外アンテナ、飛行機の映像配信ケーブルなど、温度変化が大きな環境の光配線に提案していく。