日本企業が中国事業を見直す動きが相次いでいる。経済安全保障の観点などからサプライチェーン(供給網)の依存度引き下げを図る取り組みが活発化するほか、景気低迷や急激な市場変化に対応して事業を縮小する動きも活発だ。一方、多くの日本企業にとって中国が重要市場であることは変わらず、リストラと並行しててこ入れに動くケースもある。リスクが高まる中国とどのような距離感で向き合っていくか。トップの舵取りの巧拙が今まで以上に問われる。(特別取材班)

地政学・経済安保面、募る不安 重要性は変わらず

企業が中国での事業展開を警戒する動きは鮮明だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)が中国に進出する日系企業を対象に2月に実施した調査では、今後1―2年の事業展開の方向性について「縮小」もしくは「第三国(地域)へ移転・撤退」と答えた企業の割合は21年度調査比2・5ポイント増の6・3%に上昇。「拡大」と答えた企業は33・4%で、07年度の調査以来で過去最低だった。

また経済産業省が6月に発行した「通商白書」でも、直近10年間と今後5年間で、サプライチェーンリスクが高まった国として中国が突出。米国やその他アジアのリスク度合いが5段階中1未満に留まる中、中国は4・5に近い水準だった。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は「中国に対するリスクが広く認識されたのは間違いない」と指摘する。

きっかけはコロナ禍だ。「世界の工場」として機能してきた中国のゼロコロナ政策により、供給網が断絶。さらにその後、米中対立など貿易上の懸念が増した。反スパイ法により日本人が逮捕されるなど現地で事業展開する上での懸念も強まっている。通商白書では地政学的リスクや経済安全保障上のリスクを挙げる企業の割合が、約5―7割を占める。

もう一つの要因が、人件費などコストの上昇。ジェトロの調査では、縮小、移転・撤退の理由として「調達費、人件費などコストの増加」を挙げる企業の割合が43・6%と最多だった。「チャイナプラスワン」の受け皿として人気なのがインドやベトナム、インドネシアなど他のアジア諸国だ。また円安が続き、高付加価値製品の生産などで日本回帰も起きている。

中国景気は減速傾向にあり、国際通貨基金(IMF)は同国の実質国内総生産(GDP)成長率が24年に4・2%(23年予想は5%)に落ち込む可能性があると予想する。

ただし中国市場の大きさや、これまで築き上げてきた生産体制は無視できない。帝国データバンクが7月に実施した生産・販売拠点に関する調査では生産拠点として最も重視する進出先として、比率は下がったものの中国と回答した企業が17・1%、販売拠点としては19・6%で、どちらも首位だった。

経産省は国内投資促進策を拡充し経済安全保障を確保すると同時に、先進7カ国(G7)やASEAN(東南アジア諸国連合)などとの協調で、中国を公正な貿易ルールの舞台に引き上げたい考え。各社には中国リスクを最低限に留めながら収益につなぐ、慎重な投資判断が迫られそうだ。

調達複線化で供給網強靱に EVで地場台頭、過当競争など敬遠

産業界では21年頃から、中国事業を見直す動きが出ている。サプライチェーン強靱(きょうじん)化が一つの要素だ。酒井重工業が中国に依存していた道路建設機械用部品の調達を複線化したほか、日本タングステンも中国にほぼ全量依存していたタングステンの調達先として、欧州や北米ルートの確保に動き始めた。三菱ケミカルグループも、中国が12月から輸出規制する黒鉛について「欧米の顧客に対し、できるだけ地産でサプライチェーンを見直す方向で強化していく」(中平優子最高財務責任者〈CFO〉)。

「従来、海外に偏重した投資になっていた」。こう振り返るのは道浦正治パナソニック空質空調社社長だ。同社は日本向け高・中級モデルのルームエアコンなどの生産と研究開発を、23年度中に中国・広州工場から草津工場(滋賀県草津市)に移管する。供給の効率化が目的だ。地政学リスクもにらみつつ、地産地消の生産体制を強化する企業は多い。中国や東南アジアからの生産回帰を進めるキヤノンは、国内では高付加価値品の生産に注力する方針だ。

さらに足元では中国市場の景況悪化と競争激化が各社を悩ませる。「中国市場は上がる時も下がる時もジェットコースターで危険過ぎる」(建設機械メーカー首脳)。コベルコ建機は浙江省杭州市、四川省成都市の2工場あった油圧ショベル生産体制を、成都市の1工場に集約した。2工場合計の生産能力は年1万500台から同5500台と、ほぼ半減。事業環境に即した規模に見直すことで固定費を削減、収益安定化を目指す。

中国の景気減速の引き金の一つは不動産バブルの崩壊。大和ハウス工業はリスク管理の観点から、25年3月期末まで中国での新規投資を控える。芳井敬一社長は中国展開について、「販売のスピードは少し落ちている」と指摘する。

変調が目立つのは自動車だ。電気自動車(EV)で地場企業が台頭。23年4―9月期の日系企業の販売台数は、トヨタ自動車が前年同期と同水準を維持しているものの、日産自動車やホンダ、SUBARU(スバル)は前年同期から2ケタ以上販売を落とし、三菱自動車は現地生産の撤退を決めた。

ソフトウエアを軸にした中国ニーズの変化に追いつけていないことと、利益を出せないほどの過当競争が主な原因だ。現地に進出する中堅駆動部品メーカー幹部は「原材料や部品の価格競争も激しく、我々の規模の会社は撤退も視野に入れざるを得ない」と漏らす。各社は現地開発体制の強化や、新型車の投入計画の前倒しなど対策を急ぐ。

私はこう見る/技術流出など、常に覚悟を