カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け、原子力発電への期待が高まる中、炉心の冷却に水の自然循環を用いる小型モジュール原子炉(SMR)など、原発の安全性を高める技術開発が進む。東京工業大学科学技術創成研究院の奈良林直特任教授が立ち上げたスタートアップ、GX ENERGY(ジーエックスエナジー、東京都中央区)はSMRや放射性物質の放出を抑制する設備を開発する。安全性を高めたい既存の原発メーカーに売り込む。

ジーエックスエナジーが開発する設備はフィルターベント。原発の重大事故時には、原子炉格納容器の過圧破損を防ぐため、気体の一部を排出し圧力を下げる「ベント」を行う。その際、気体に含まれる放射性物質をフィルターで除去する。ベント時の放射性物質を外部に放出せず、閉じ込めることで、原発の安全性を高められる。

経済産業省の補助金を使い、ラサ工業や東工大などが開発するシステムを事業化する。同システムはスクラバーや特殊なゼオライト、メタルファイバーなどの多段階のフィルターを通過して、ヨウ素や希ガスなどの放射性物質を吸着する。

まずはフィルターベントの技術を生かして、空気浄化システムを実用化する。ウイルス除去に加え、原発事故時を想定した避難所などに設置してもらう。原子炉での活用も目指すが、「原発建設は収益を得るのに時間がかかる」(奈良林特任教授)ため、当面は空気浄化システムで収益を得る考えだ。

原子炉での応用では、SMRにフィルターベントを適応する。SMRは従来の軽水炉に比べ、設備が小さいため大きな格納容器を設置できない。同社はSMRに合ったフィルターベントを設計し、欧米メーカーが開発する原子炉への導入を目指す。奈良林特任教授は「多くの主要メーカーと協業などの話を進めており、すでに数基を受注している」と話す。

将来は工場で原子炉の主要部品を製造し組み立て、建設コストを大幅に減らすSMRの実現を目指す。量産化を容易にし、建設期間の短縮にもつながる。免振ゴムや自然循環方式を採用し、安全性を高める方針だ。炉心への冷却水の循環にはインターナルポンプを採用し、電力消費量の変化に短時間で対応する「負荷追従運転」を可能にする。ポンプの回転数を変化させることで、電気出力を30万キロワットから80万キロワットまで出力を変化させる。火力発電などの代替として運転できるようにする。奈良林特任教授は「カーボンニュートラルには原子力発電の運転は必要だ。安全性を高めながら、建設コストの低減を実現したい」と力を込める。