シャープに回復の兆しが出てきた。2023年3月期連結決算では2600億円もの当期赤字を計上したが、24年3月期は当期黒字化が見えてきた。ただ目先の黒字化以上に、成長路線への道筋を示すことが求められる。ディスプレーに代わる新たな収益源をどのように確立していくのかが焦点だ。(編集委員・安藤光恵)

ブランド事業前面、AI注力

「期初の想定内で業績が推移しており、通期では全利益段階での黒字化が達成できると見込んでいる」。シャープの沖津雅浩副社長は手応えを示す。23年4―9月期は営業損益が赤字となったものの当期黒字は確保。7―9月期の3カ月間では営業損益も黒字化し、前期からの持ち直しが鮮明になった。

ただ主な要因は大型ディスプレーの収益改善などでディスプレー事業の赤字幅縮小であり、再び成長軌道に乗ったとは言いがたい。シャープが今後の業績改善のけん引役として期待をかけるのは、家電や通信など最終製品を手がけるブランド事業などだ。ディスプレーを中心に据えてきた事業体制から、大きく舵を切る。

創業111周年を記念して先月開催したプライベート展示会「シャープ テック・デイ」。最新技術で実現する近未来の世界をテーマに42種類の技術を展示した。来場者は3日間で計5000人以上となった。

近未来の製品として、排水を出さない洗濯機の試作品を展示。将来はブランド事業の顔にもなり得る

今後、ブランド事業の顔にもなり得る近未来の製品としては、フィルターで水を循環して排水を出さない極節水洗濯システム、低騒音化したドライヤーと掃除機、高速オーブンなどが並んだ。「できそうなのに無理だったことが可能になる」と種谷元隆最高技術責任者(CTO)はアピールする。

次世代技術の開発にも余念がない。呉柏勲社長は「人工知能(AI)や電気自動車(EV)向けソリューション、グリーンエナジー、第6世代(6G)通信、半導体、ロボティクスなどの分野で世の中に革新をもたらしたい」と意気込みを見せる。

特に注力しているのがAIだ。テック・デイでは、アバターによるバーチャル説明員、においセンサー、不適合品検査や運転改善指導の機器など展示品の約7割でAIを活用しているという。簡単に使える生成AI「エッジAI」の開発も始めた。

そのAI開発で目立っているのが、ベンチャーとの協業だ。エッジAIを組み込んだ製品開発はベンチャー5社と連携して進めており、AIパートナーやAIアバターの実用化を目指す。個人向け製品にエッジAIを組み込み、利便性を高める構想だ。

シャープはAIに限らず多くの技術でベンチャーと連携して開発に取り組んでいる。大企業で課題となりがちなフットワークの重さを克服するため、ベンチャーと連携することで事業化のスピードアップを狙う。テック・デイで紹介した技術に関しても早ければ24年にも一部実用化を目指している。

ベンチャー精神―復活のカギ

一方テック・デイにおいて、これまで主力だったディスプレー事業関連の主な展示は、屋外光を光源とする反射型液晶ディスプレーと電子ペーパーを使ったディスプレーと小粒。屋外や災害時など電力の確保が難しい場面での需要開拓を狙う戦略製品ではあるが、かつて自他ともに認めた「液晶のシャープ」の姿はもはや見られない。

「シャープは111年前に創業し、ほどなくしてシャープペンシルを発明しました」。テック・デイのオープニングイベントで呉社長は、シャープ創業者である早川徳次の若き日をコンピューターグラフィック(CG)で再現し、社名の由来にもなったシャープペンシルを呉社長に手渡す演出を行った。

「ゲームチェンジをもたらす技術により、人々の生活や働き方をより簡単に、より安全にすることを目指す」と呉社長は目標を掲げる。液晶で大きく成長し、液晶で経営危機に陥ったシャープは、シャープペンシルを生み出した原点に戻る。ベンチャー精神を取り戻し、事業化のスピードを上げていくことができるのかが、完全復活のカギを握る。

インタビュー 「無理を可能に」近未来提示/常務執行役員CTO・種谷元隆氏

技術を軸に成長路線への回帰を目指すシャープ。最高技術責任者(CTO)として指揮を執る種谷元隆常務執行役員にテック・デイの手応えやベンチャーとの連携戦略などについて聞いた。

常務執行役員CTO・種谷元隆氏

―テック・デイの来場者の反応は。
 「シャープの方向性を多くの人に知ってもらう機会となり、中でもAI世界とどう付き合っていくかの方針を理解してもらえた。“視線”が似た企業と共同歩調を取りたいというメッセージも打ち出せた。数百万台の家電がAI機能を手に入れて進化し、暮らしが豊かになる実感を持ってもらいたい」

―近未来の世界観を見せるための工夫は。
 「技術の専門的な説明よりも、実現したら現在の生活からどう変わるのかという点を見せるのに集中した。SFのような遠い未来でなく、できそうなのに無理だったことが可能になると技術で表現できた。『ゲームチェンジと近未来』の方向性は1年前から決めていたので、それぞれの担当者がデザインも工夫してくれた」

―ベンチャーとの連携の手応えは。
 「ここまで仕上げられたのはベンチャーと連携したから。シャープだけなら倍の期間がかかったであろう技術もある。技術を持ち寄り改善点を出し合い、一体となって動くことで方法を学ばせてもらった。ただ早期に実用化しないと価値が薄れるため、引き続きの連携に加えて今回の展示会をきっかけに新たな提案ももらいたい。シャープの取り組みがベンチャーに浸透すれば、連携はもっと洗練していくはずだ」

―今後に向けて見えた課題は。
 「世の中の動きは早い。製品・事業につなげる中でまた新たな変化が出てくる。展示した技術が完全ではなく、今後の世界にいかに対応するかが重要になる。今回の展示の実用化に全員がかかりきりになるのではなく、次の近未来の仕込みもしていかないといけない。3カ月で変わるAIと、50年を見据えた持続可能な技術の両方をマネジメントし、ユーザーの利点の最大化を目指す。唯我独尊に陥らないように、PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを細かく回しながら近未来の提示を続けていくことが大切だ」


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