デジタル変革(DX)の本質は、データやデジタル技術を活用した「イノベーションの創出」にある。特に、製造業が扱う産業データは、その活用があまり進んでいない未開拓の分野であるため、イノベーションが生まれる余地がまだ多く残されている。すでにGAFAMをはじめとする巨大テック企業によって飽和しつつあるインターネットデータの市場よりも、今後の企業成長に資する潜在可能性は高いとさえいえる。

しかし、既存の製造業が、すぐさまデータやデジタル技術を活用してイノベーションを創出するのは非常にハードルが高い。そこに辿り着くまでの過程で、データ活用や組織・体制に起因する壁が幾重にも立ちはだかるため、まずはそれらを乗り越えるところから始めなければならない。

こうしたDXを阻んでいる壁を乗り越えるには、組織学習によって組織能力を高め、社内の組織的な基盤を再編成すること(=「基盤づくり」)が必要になる(図)。この「基盤づくり」こそが、製造業がDXに取り組む際に目指すべき最初のゴールである。なお、「基盤づくり」は、DXの第一歩であって、単なるデジタル化とは明確に異なる。「基盤づくり」は、現場主導の課題解決の積み重ねを通じて進み、組織文化や組織体制・制度、業務フロー、人材など、組織内部に大きな「変革(トランスフォーメーション)」を引き起こすからである。逆にいえば、データやデジタル技術を用いているだけで、こうした変革が組織内部に生じていない場合は、DXはまだ始まってすらいないと考えるべきである。

「基盤づくり」の結果、「高度に専門化・分業化された現場の集合体」である製造業の組織としてのあり方が様々に変化する。各現場は、データやデジタル技術を有効活用しながら、素早く、かつ継続的に新しい課題解決にチャレンジできる集団へと変貌し、また、現場間の縦割り構造が解消されてデータやデジタル技術の活用が全社横断的に行われるようにもなる。このような組織的な「基盤」が整って初めて、DXを阻んでいる壁を乗り越えたことになるし、さらには、DXの本質である「イノベーションの創出」にも着手できるのである。

ただし、優秀な現場を抱える我が国製造業であっても「基盤づくり」に至るまでの組織学習プロセスはそう簡単には進められない。社内で様々な意見調整が求められ、また、多くの経済的・時間的・労力的なコストも発生する。したがって、そもそも組織学習プロセスが開始できなかったり、途中で挫折したりといった事態がしばしば起こりうる。こうした事態を避けるためには、組織学習プロセスが自律的に回るような仕掛け(=「好循環の内的メカニズム」)を生み出さなければならない。

DXは組織学習を通じて進むため、長期的な視点に立った取り組みが求められるのは事実であるが、変化が激しい現在のビジネス環境では、本書で取り上げるケーススタディ企業ほどの時間的猶予は残っていないと考えられる。したがって、今からDXを開始する企業においては、近年ますます身近で便利になってきている様々なデジタルツールを有効活用しながら、ケーススタディ企業以上にスピード感を持ったDXの推進が求められるだろう。

そして、国内企業の競争力向上の鍵を握るともいわれる「事業規模や業界を越えて産業全体でつながる変革」は、そのプレーヤーたる個々の企業の「基盤づくり」が進まなければ成しえない。すべては「基盤づくり」から始まるのである。
(「製造業のDXを阻む壁を乗り越えろ!」p.21-p.23より一部編集して抜粋)

<書籍紹介>
書名:製造業のDXを阻む壁を乗り越えろ! 事例に学ぶ10のヒント
編著者名:(一財)企業活力研究所
判型:A5判
総頁数:192頁
税込み価格:1,650円

<販売サイト>
Amazon  https://www.amazon.co.jp/dp/4526083070/
Rakuten ブックス https://books.rakuten.co.jp/rb/17656372/?l-id=search-c-item-text-01
Nikkan BookStore  https://pub.nikkan.co.jp/book/b10039939.html

<編著者略歴>
一般財団法人企業活力研究所
1984年(昭和59年)に、我が国経済の着実な発展、活力とゆとりある社会の実現を図る観点から、民間活力の担い手である企業の活力の増進のため、経済・社会上の諸問題、企業活動をめぐる政策のあり方の調査研究等を行うための組織として、経済団体連合会(現 一般社団法人日本経済団体連合会)の協力と通商産業省(現 経済産業省)の支援を得て設立。2013年に一般財団法人に移行。
我が国を取り巻く環境変化を見据えて、重要テーマ別に官民の率直な意見交換を行うための委員会を開催し、また、個々の重要テーマに関して調査研究を行う研究会を設置している。

<目次>
第1章 改めて“DXとは?”を考える
第2章 DXのための基盤づくり
第3章 製造業のDXを阻む壁の乗り越え方