空気の振動を一瞬で安定
研究され尽くしたと考えられてきた電磁バルブに革新が起きつつある。東京大学が10ミリ秒で目標流量を実現する精密流体制御技術を開発した。電磁弁を高速駆動して空気の振動を打ち消し、従来の約50分の1の時間で流量を安定させた。地味な成果だが応用は広い。半導体製造装置では原子一つ分の薄さで元素を積層し、免震装置ではわずかな振動を打ち消せると見込まれる。成熟した技術にもイノベーションの芽が眠っている。(小寺貴之)
「技術自体は奇抜な要素はないんです。たぶん、ここまで真面目にやった研究者がいなかったんだと思います」―。東大の服部光希大学院生は照れくさそうに笑う。電磁弁のソレノイド(電磁石機構)を高速駆動して流路内で発生する空気振動を打ち消す精密制御技術を開発した。ソレノイド自体は広く利用されてきた。ただ弁を高速で開閉しても、急な流れで空気が圧縮され、流路内で振動が生じてしまう。弁の移動量と流路の断面積は複雑な関係式になるため、精密に制御するのは難しかった。
そこで事前に弁の位置に応じて流量のデータを集め、参照処理の要領で制御モデルに落とし込んだ。ノイズを定常成分と過渡成分に分けて求める。気体の粘性摩擦などを加えて前もって動作を修正するフィードフォワード制御を行う。実験ではフィードフォワード制御とカスケード制御を組み合わせ、流量の整定時間を10ミリ秒と約50分の1に短縮できた。大西亘准教授は「空気の振動を打ち消すように電磁弁が高速振動する。空圧制御の限界を電磁制御の高速さで押さえ込んだ」と説明する。
研究室ではまだバルブ単体の成果だが、精密機器各社が飛びついた。倉敷化工(岡山県倉敷市)の野上康広事業部長は「ポテンシャルが大きい。空圧の限界を超えて、速さや精密さを追求できる」と期待する。精密機器を載せる空圧除振台に応用すると、地面から伝わる震動は空圧で浮かせて断ち、精密機器で生じる振動は高速制御で打ち消すといった応用が可能になる。
半導体製造の成膜装置ではウエハーに供給するガスの流量を精密に制御できる。単原子層を積層したり、ドライエッチングで精密除去したり、この加工プロセス自体を高速化したりと半導体の微細化に欠かせない要素技術に育つ可能性がある。
近年、成熟した工業技術から研究テーマを見つけるのは容易ではなく、大学での研究は論文の書きやすい分野にシフトしてきた。しかし成熟し普及している技術に革新を起こせると波及効果は大きい。空圧やガスを使う機械は膨大に存在する。現場のアイデアの数だけ応用研究が広がる可能性がある。
実現には電磁バルブのサイズやガス種を変えた検証や、複数の電磁バルブをつないで干渉しないか検証していく必要がある。
要素技術を組み合わせ、装置として評価できるのは、やはり装置メーカーになる。成果を刈り取るには産学連携が欠かせない。大西准教授は「メーカーと組み、限界に挑戦していきたい」と力を込める。
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