課題を起点に解決策導く
日本のヒューマノイド開発が悩ましい状況が続いている。米中でスタートアップが開発をけん引しているため大型投資とそれを支えるハイプ(誇大広告)が拡散する。日本は製造業が顧客との共創で開発を進める。海外勢をハイプと断じるのはリスクでしかなく、大型投資は着実に技術を前に進めている。それでもいまのヒューマノイドには用途が見つからない。こんな状況が10年近く続いている。(小寺貴之)
生成AIとの融合研究急進
「中国の投資家はまさにイケイケ。大きく投資するつもりだが、ヒューマノイドの将来はどうかと問われた」と大阪大学の原田研介教授は振り返る。10人規模で2度ヒアリングされた。中国では宇樹科技(ユニツリー、杭州)が1億5500万ドル(約230億円)を集め、さらに投資を募っている。2024年には日本でも機体の販売が始まった。開発できない機体は300万円台、研究開発用機は600万円台からで提供される。従来は千数百万円から二千数百万円したため価格破壊といえる。ヒューマノイド研究の大家は「研究者が作る時代から買う時代になった。ドローン(飛行ロボット)のように使いこなす研究に移行する」と指摘する。
そしてロボットと生成AI(人工知能)の融合研究が急進している。大量の試行錯誤データを学習させてロボットの動作を生成する試みだ。ヒューマノイドは人間の動きをそのまま反映させやすい。遠隔操作データや人間の動作データを学習させると多様な仕事が可能になると期待されている。「20年後にはロボットが『YouTube』で学んで実行するという未来もありえる」という意見もある。
米テスラは人が遠隔操作した作業データを学習させてヒューマノイドを動かしている。ユニツリーもカンフーなどの動画を公開し話題を集めた。ただ原田教授は「このまま5年、10年と発展していくことはないだろう」と指摘する。ヒューマノイドのエンタメ利用はいずれ飽きられる。テスラも単純な部品の箱詰めなどを披露している段階だ。産業用ロボットとしては効率が悪い。多様な仕事を担えるようになると期待されるが、ヒューマノイドのための段取り替えが発生すると本末転倒になる。
東京大学の淺間一特任教授は「ヒューマノイドから機能を引き算していくことになる」と指摘する。ヒューマノイドが生産ライン導入されても、そこに需要があると認識されれば単腕アームで同じ仕事をこなす専用システムが構築され提案される。その方が安く早く保守も楽だ。
すでに双腕ロボットは実用化されており、システムインテグレーター(SIer)もいる。2足歩行で歩いて現場を移動するよりも無人搬送車(AGV)に双腕ロボを載せた方が確実だ。作業中に立ち姿勢を維持するために余計なエネルギーを割かなくてすむ。「モバイルマニピュレーター(移動作業ロボ)さえ普及しない。ヒューマノイドを買う現場があるのか」という声もある。これは日本が歩いてきた道でもある。
日本ではTHKや川崎重工業などがヒューマノイドを開発する。特徴は共創で事業開発を進める点だ。川重は共創拠点「カワルバ」でヒューマノイドを含むソーシャルロボットを提案する。ロボット技術は社会課題を解く手法の一つだ。ロボットありきでなく、顧客の課題を起点に解決策を組み立てる。ヒューマノイド以外にも多様なロボットを抱えているメーカーならではの戦略といえる。
遠隔技術と組み合わせ
最近では産業用ロボット次世代基礎技術研究機構(ROBOCIP)や神戸大学が開発した遠隔操作技術と組み合わせて、家庭でも用意できるヒューマノイド操作システムを開発した。インターネットとゲームコントローラーでヒューマノイドを操作できる。川重の村上潤一課長は「不安定な通信、雑な入力でも操縦でき、ユーザーを広げられる」と説明する。
一般のネット回線は通信遅延がバラつくが新技術で変動影響を緩和した。ゲームコントローラーの入力信号がバラつくとロボットは自分の身体を叩いて手が壊れる問題があったが、自己干渉回避技術で防いだ。こうした基本機能は他のロボットにも応用できる。
日本としては産業用ロボットなどの製造業がヒューマノイドを開発している限り、海外のベンチャーの動向を静観できるといえる。需要を見極めて産業用ロボットで市場を切り取るか、ヒューマノイドのプラットフォーム争いに参戦するか選択肢はある。FA(工場自動化)分野では「ハイプで市場ができるなら言わせておけばいい」という声もある。
重要なのは技術と製造の両面で優位性を確保する点だ。原田教授は「力学シミュレーションの進歩が目覚ましい」と指摘する。組み立てなどの接触を伴う作業には力触覚が重要だ。日本は実機で長く研究されてきたが、シミュレーションで試行錯誤のデータを作り、AIに学習させる手法が広がっている。原田教授は「早晩解かれるかもしれない。スリリングな状況」という。
アバターに活用、価値を創出
淺間特任教授はアバター(分身ロボ)としての活用に期待する。障がい者などがヒューマノイドを遠隔操作して出勤する。淺間特任教授は「できて当然の仕事よりも、できなかった仕事を実現した方が同じ作業でも価値は大きい」という。
障がい者の社会参画や遠隔勤務による地方創生などの課題を解決でき、社会も後押ししやすい。アバターはコンピューターグラフィックス(CG)や卓上ロボなどの機体が実用化されているが、駅やオフィスで働いていると人と見なされないことがあった。ヒューマノイドなら中身は人として尊重される可能性がある。こうしたシーンで使いこなしやAI融合研究を進めておけば産学で補完できる。
技術開発で日本がリードしたヒューマノイドは今後5―10年で実用化されると期待されている。海外勢がハイプに見えても、化ける可能性はある。その需要をどう刈り取るかは事業者に委ねられる。産学で静かに準備を進める必要がある。


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