豪雨や台風などによる水害や、日照りによる渇水などの被害を軽減するため、ダムの機能が見直されている。災害対策に加え、水力発電など再生可能エネルギーの活用という点からも重要性が増している。こうした中、国土交通省は既存ダムの有効活用に向けた「ダム再生ビジョン」を策定し、ダムの長寿命化や柔軟な運用などの方針を打ち出した。ゼネコンも既存ダムの活用に役立つ改修技術やロボット技術の開発に力を入れている。

 7月上旬に豪雨が襲った九州北部では、現在も復旧作業が続くなど、最近は水害が頻発している。2015年9月の関東・東北豪雨、16年8月の北海道への3台風上陸なども記憶に新しい。

 一方で、水不足への対応も重要だ。過去5年間で北海道・沖縄県を除く21水系26河川で取水制限が実施された。直近でも埼玉県と東京都の水源となる荒川水系で取水が制限されており、水不足への懸念が強まる。

 こうした中で見直されているのがダムの機能だ。異常気象が続く日本において、豪雨時の水量調整機能や、水不足をにらんだ貯水機能など治水・利水が重要性を増している。また、水力発電は二酸化炭素(CO2)が発生しない再生可能エネルギーとして一定の役割を担う。

 鶴田ダム(鹿児島県さつま町)では、従来発電用に設置していた放流位置より低い部分に放流管を新たに設置した。水量が一定量に満たない早い段階で水を放流でき、洪水対策をしやすくする。また、ダムの堤体を高くして貯水量を増やす取り組みも推進する。

 新桂沢ダム(北海道三笠市)は国のダム事業として初めて堤体を高くする事業を20年度までに実施する。約2割高くすることで、ダムの総貯水量が約6割増加する見込みだ。

 ダム再生ビジョンではこうした実績を踏まえ、10項目の方策を示した。ダムの長寿命化では、ダム内に堆積する土砂を排出するバイパスの設置や新工法の検討を進める。

 ダムの維持管理における効率化・高度化にも着手する。建設段階では情報通信技術(ICT)を用いた3次元モデルを活用し、維持・管理業務に役立てる。

 水中ロボットや飛行ロボット(ドローン)などを用いた点検手法も導入する方針だ。水力発電では、治水と発電の双方の能力を向上させる手法を検討する。

 国交省は渇水対策で、所定の容量より水を貯めて利水に活用する運用のルール化に向け、国交省と水資源機構が管理する123カ所のダムの点検を今年度中に実施する。

 「過去の降雨量やその地域の気象状況などのデータを活用した気象予測技術が重要」(国交省治水課)と最新の気象予測技術との融合により、ダム運用の精度を高めていく。

ゼネコンも新技術の開発次々と
 既存ダムの活用に向けた再開発工事や点検・補修作業に向け、ゼネコンは新技術の開発を進めている。その一つが、鹿島と日立造船、国土交通省九州地方整備局、ダム技術センターが共同開発した「浮体式仮締切工法」だ。

 ダムを運用したまま堤体に穴をあける再開発工事では、水が流れ出ないように仮設の構造物「仮締切」を設ける。ダムの堤体の穴にふたをして流水を防ぐイメージだ。従来の仮締切は、ダム底にコンクリートの台座をつくり、その上に鋼製部材でコの字型の扉を設置する。

 鹿島などは鶴田ダムの再開発工事で、浮体式仮締切工法を初めて適用した。水面で鋼製ブロックを浮かべたまま積み重ねて仮締切を構築。組み立て後は、ダム堤体までえい航して設置する。鹿島の土木技術とブロックを浮かべたり、水もれを防いだりする日立造船の造船技術が融合した。

 従来の仮締切の工事ではコンクリートの台座を設置するため潜水作業が必要。ただ、鶴田ダムは国内最深級の65メートルと深く潜水作業が難しかった。

 同工法を用いると大水深での作業が不要になる。林健二鹿島土木管理本部土木工務部ダムグループ長は「新工法の開発で作業の効率化や工期短縮、コスト削減、潜水士の安全を確保した」と成果を強調する。

 大林組が開発した水中インフラ点検ロボット「ディアグ」は、ダムなど水中構造物の点検作業で威力を発揮する。深さ100メートルまでの潜水が可能で、水上からの電源供給により、長時間稼働できる。

 画像解析機能によってカメラで撮影した水中の白色浮遊物を自動的に除去。濁水の中でも鮮明な映像をモニターに表示する。レーザー照射により、ダム壁のひび割れ部分の大きさの測定も可能だ。

 ディアグは水中での姿勢を制御する装置「アクアジャスター」を備える。物体の回転で姿勢が乱れないように調整するジャイロ効果を利用した。

 水流による機体の揺れを抑え、ほぼ静止した状態で対象物を撮影できる。アクアジャスターは東京スカイツリー(東京都墨田区)の工事で風で揺れるタワークレーンのつり荷を制御した実績もある。

 従来、水中での点検作業は潜水士が行っている。ただ人間の潜水時間には制限があり、通常は深さ40メートルまでの潜水が限度だった。徳永篤大林組生産技術部ダム技術部副部長は「ロボットであれば点検作業を連続的にできる」と説明。最新技術の活用で、ダム再生を支えていく。

(文=村山茂樹)

【ファシリテーターのコメント】
 国土交通省がまとめた「ダム再生ビジョン」では、国の厳しい財政状況などを踏まえ、既存ダムの有効活用を打ち出した。国交省はこれまで、既存ダム活用に向けた実施事例を積み重ねてきた。その取り組みをソフト・ハードの両面から発展させる。豪雨対策としては、豪雨が予想された時点で放水して水位を下げ、洪水調整の容量を増やす。「運用改善で新たな効果を発揮する」(石井啓一国土交通相)とし、現在13カ所のダムで実施している。
(日刊工業新聞第二産業部・村山茂樹)
日刊工業新聞 記者