―なぜ本を出したのですか。
 「学長に就任して今年で6年目。これまでの成果をまとめてみたいと考えていた。そんな時、出版社から本の話をいただき、チャンスだと思い執筆した」

 ―5年間での具体的な成果は。
 「研究成果を世間の人に分かりやすい形で“見える化”できたこと。東京と大阪に(完全養殖に成功した)近大マグロを提供する店ができたほか、近大マンゴーやウナギ味のナマズなども世に出せた。これらができたのも民間企業との連携のおかげだ」

 ―“稼ぐ大学”という項目があります。収入の内訳は。
 「学生からの納付金が4割、付属大学病院からの収入が4割、残りはマグロの店の売り上げや民間企業への研究成果の譲渡、大学ベンチャーからの収益で確保している。強調したいのは、いかに外部と仕事し稼いでいるかということ。日本の大学の中で民間企業からの受託研究数は2番目、受託研究費受け入れ額は慶応義塾大学、早稲田大学の次に多い。そのため、近畿大学はよく“総合商社”と言われる」

 ―近大マグロの話も取り上げています。大学の教育方針である実学教育が生きています。
 「マグロの研究を32年続けられたのは、これまで養殖に成功した魚を売って稼ぎ研究資金に回したから。水産研究所の熊井英水名誉教授の話では、市場に養殖魚を売りに行くと相手から『大学が魚を売りに来るのか』と言われたそうだ。研究を続けられたのも実学の精神があったから。それでなければ研究は中止していた」

 ―毎年印象の強い新聞広告を出しています。本書の中で掲載に反対した広告にも触れています。
 「2014年の広告だ。世界遺産の富士山からマグロが覗くなど非常識きわまりなかった。後で担当者から『富士山ではない』と言われ賛成した」

 「17年の『早慶近』は良かった。私大としての国際的な評価からすると、近畿大は関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)より上で日本では3番目。でも、それを出すと世間から批判されるので広告に“自虐”を入れた。近畿大が偉そうな顔をするのではなく『そんな広告を出した自分が笑えてくる』とひと言そえて、大阪の笑いの文化に乗っかった。これが大学の堅いイメージを変えることにもつながった」

 ―大学として次に取り組む事業は。
 「医学部(大阪府大阪狭山市)と大学病院(同)の移転計画だ。見積もりでは本部(大阪府東大阪市)の大規模整備(約500億円)以上に費用がかかるという。膨大な費用だが、金融機関から借りずにやりきる。前身の大阪専門学校設立100周年を迎える25年までの完成を目指す」

 ―昨今の大学のイメージチェンジには驚きます。大学の代名詞“バンカラ”は失われないですか。
 「そんなものは必要ない。バンカラなら女性が入学しない。女子大も共学化する時代に、学生はそんな大学に行きたくないだろう。世の中の変化に対応しないと生き残れない。バンカラは過去の遺物で、旧制高校時代の話だ」
(聞き手=東大阪・村上授)
【略歴】
塩?均(しおざき・ひとし)氏70年(昭45)阪大医卒、78年西ドイツ・ハイデルベルク大に留学し病理学を学ぶ。95年阪大第二外科助教授、01年近畿大教授、08年医学部長、09年理事。専門分野は上部消化管外科学。著書に『天を敬い人を愛し医に生きる』(悠飛社)。和歌山県出身、72歳。

【ファシリテーターのコメント】
塩?学長して今の近大あり、というのがよく分かるインタビュー。著書も私大サバイバルの中でいろいろ示唆に富む内容です。
明 豊