日本各地で記録的な大雨が襲った。近年、国内では大雨による被害が相次いでいる。災害に対するレジリエンス(復元力、強靱(きょうじん)さ)が求められており、研究機関は気象現象を高精度に観測して防災に役立てるため、最新のレーダーを使った技術開発を進めている。さらに日本の技術力を生かし、海外の気象災害を軽減するための取り組みも進む。

 理化学研究所計算科学研究機構の三好建正チームリーダーらは、高性能の気象レーダー「フェーズドアレイレーダー」を使い、30秒ごとに10分後までの降水を予報する「3D降水ナウキャスト手法」を開発した。

 情報通信研究機構電磁波研究所、首都大学東京などとの共同研究。理研はコンテンツ配信事業を手がけるエムティーアイのスマートフォン用アプリケーション(応用ソフト)を使い、予測情報のリアルタイム配信を今月にも始める。

 フェーズドアレイレーダーは、30秒ごとに60キロメートル先までの雨粒を隙間なくスキャンする。急激に変動する積乱雲の立体的な動きを追跡できるため、高精度な降水予測が可能。

 大阪大学吹田キャンパス(大阪府吹田市)に設置されている。従来のレーダーを使った手法では、積乱雲を3次元で隙間なくスキャンするのは難しかった。

 新手法による関西地方の降水予報は、理研のウェブサイトで確認できる。さらに、エムティーアイの応用ソフト「3D雨雲ウォッチ〜フェーズドアレイレーダ〜」で、7月中にも配信したい考えだ。

 局地的な大雨が降ると、わずか10分の間に急激に川の水位が上昇したり、浸水が起こったりする危険性がある。三好チームリーダーは「地下や急傾斜地で働く人などに、一刻も早く危険を伝えたい」としている。

「最強の気象レーダー」水平・垂直で雨粒観測
 フェーズドアレイレーダーは大阪大のほか、茨城県つくば市の気象研究所などに設置されている。そのフェーズドアレイレーダーをさらに進化させた「マルチパラメータフェーズドアレイ気象レーダ」(MP―PAWR)の開発が進んでいる。情通機構や東芝、首都大学東京、名古屋大学が開発中で、さいたま市桜区の埼玉大学に10月にも設置する予定だ。

 MP―PAWRは既存のフェーズドアレイレーダーと同じ、30秒の時間分解能を持つ。より降水量を高精度に推定でき、研究者からは「最強の気象レーダー」と呼ばれている。

 特徴は、水平と垂直の方向に振動する2種類の電波を同時に送受信できる「二重偏波」を採用した点だ。そのため、雨粒を立体的に観測できる。

 既存のフェーズドアレイレーダーは、いずれも水平の電波だけを送受信する「単偏波」だった。そのため、雨粒の形状といった精度の高い情報は観測できなかった。防災以外にも東京五輪・パラリンピックの屋外競技実施判断などにも活用できそうだ。

培った知見、海外に提供
 日本気象協会は、東欧に位置するモルドバ共和国と気象レーダーを使った共同研究を始めた。同社の気象観測・予測技術と、モルドバの農業食品産業省降ひょう対策局(AHS)が持つ経験を掛け合わせ、モルドバで氷の粒「ひょう」を降らせる危険性がある雨雲の正確な検出・予測を目指す。

 農業国であるモルドバでは気候変動の影響で、ひょうや高温、干ばつといった気象に関係する被害が深刻で、被害額が日本円で約11億7000万円に上った年もあるという。

 夏には人間の握りこぶし程度の大きさのひょうが降ることがあり、ワインの生産に使うブドウなど農作物が被害を受ける。人や自動車などへの被害も発生しており、雨雲の中にあるひょうを小さくする「消ひょう剤」(ヨウ化銀)を積んだ小型ロケットを年間約5000発打ち上げている。

 同国には日本のような最新のレーダーはないものの、共同研究を通して気象レーダーのオペレーション改善や、ひょう検知の効率化につなげたい考えだ。
(文=福沢尚季)

【ファシリテーターのコメント】
大雨や台風、地震といった災害が頻発する日本。さまざまな研究や技術開発によって捉えた災害の前兆を、防災につなげる取り組みが必要だ。さらに培った技術を国外の防災にも役立てるといった、「防災先進国」としての役割も求められている。
(日刊工業新聞科学技術部・福沢尚季)
日刊工業新聞 記者