薄暮のサーキットに男子生徒の弾んだ声が響いた。「気持ちいい!」。14日夕刻、愛知県蒲郡市の「スパ西浦モーターパーク」に1台の電気自動車(EV)が姿を見せた。愛知県立愛知総合工科高校専攻科に所属する自動車開発部の生徒が自作したEV「Collapse(コラプス)」を初めて校外で走らせた。

 このEVは約3カ月半後に東京・有明の東京ビッグサイトで開かれる「東京モーターショー」への出展が決まっている。専攻科の「超小型シティコミューターを教材とした自動車開発の実践教育」授業の一環で、2016年春から2人の指導教員の下、生徒5人がEV製作に取り組む。これまでに車台やボディーの製造が完了した。

 この日は全長約1・5キロメートルのコースを計5周ほど走行。時速10キロメートル前後でゆっくりと運転し、「走る・曲がる・止まる」の基本性能を確かめた。参加生徒全員が交代でコラプスに乗ってコースを周回。カーブでのタイヤの切れ角の制御や車両の剛性など、課題も見つかった。部長の北村清君(専攻科2年)は、「うれしさと反省の両方がある」。モーターショーに向け、さらにクルマを作り込んでいく考えだ。

「自分の乗りたいクルマ」つくる
 日本の自動車市場は少子高齢化やシェアリング(共有)サービスの登場などで縮小傾向にあるという。でも、それは本当なのだろうか。「若者の車離れ」はずいぶん前から叫ばれている。若い視点で、自分たちが乗りたいクルマ、将来あるべき自動車社会を提案したい―。こうした生徒の思いが、プロジェクトの根本にある。

 車名には自動車の既成概念を壊すという意味を込めた。車体は前後輪の間を起点に折り畳めるユニークな構造。ボディーの素材には炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使い、本体重量を50キログラムまで軽量化。操縦はステアリングではなくゲームのコントローラーで行い、鍵の開け閉めにはICチップ入り身分証を使う予定。EV製作にとどまらず、地域での車の共有サービスや家庭向けリースプランといった事業提案にもチャレンジする。

地元企業も協力
「乗りたいクルマ」を生徒の力だけで実際の形にするのは難しい。これまでに活動の趣旨に賛同した企業23社が、部品提供や技術指導、モーターショーへの出展費用などで協力を申し出た。今回の走行試験に使ったコースも、協賛企業である伊藤レーシングサービス(愛知県岡崎市)が提供した。自動車産業の集積地である強みを生かし、企業の協力を得ながら新しいクルマの形を提案していく。

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 愛知総合工科高校専攻科の生徒が「若者の乗りたいクルマ」をテーマに製作する“高校生EV”はどこに向かって走るのか。その開発に密着し、若年層が自動車産業の未来をどう描き、どう変えようとしているのかを探る。

【ファシリテーターのコメント】
 10月下旬に始まる東京モーターショーまでの約3カ月間、日刊工業新聞でこの取り組みを連載することにしました。週1回程度の掲載です。高校生、といっても彼らは工業高校などを卒業した後に入ることのできる「専攻科」という2年制の学科の生徒たちですが、独創性あふれるEVを昨年から開発中。その発想がとにかく面白いのです。
杉本 要