明治維新でちょんまげを切ってから150年になるというのに、いまだに時代小説の人気が衰えないのは、諸外国からみて不思議かもしれない。捕物、伝奇、剣豪、股旅など、すでに現存しない江戸時代の習俗が、現代でも常識のように通じる。

 吉川英治、池波正太郎、山本周五郎、藤沢周平といった大家の作品ばかりではない。佐伯泰英、上田秀人、辻堂魁、山本一力らの新鋭が力作を次々と世に送り出している。『懐かしのメロディー』には新曲がないが、時代小説は新作にこと欠かない。

 昔に比べて文字が大きいこともシニア層の読者には魅力。さらに捕物帳や剣豪モノだけではなく、豆腐屋や籠(かご)かきなどの市井の人々、奥右筆や勘定吟味役など幕藩体制の裏方ら目立たない人々を主人公に描いている新鮮さが特筆される。

 上下関係に悩む下級役人の苦悩、職人気質や商人の事業欲を、当時の街並みや暮らしぶりを背景に描く。綿密な調査に思わず感心させられる。

 現代でいえば、さしずめ課長補佐クラスの公務員や機械オペレーターだろうか。彼らの人生が数百年後の後世に『平成小説』として読まれていると想像すると楽しい。願わくは新聞記者も“粋な人”として登場させてもらいたい。

【ファシリテーターのコメント】
懐メロと違い、時代小説に新作が相次いでいるというのは新鮮な指摘です。中世欧州風の剣と魔法の世界や、宇宙戦争を描くSFと同様、ファンタジーのひとつのジャンルとして確立されたように思います。実はシニア向けだけでなく、若者向けのライトノベルやゲームにも時代モノのヒット作があります。「古くささ」というのは時代設定とは別なのです。
加藤 正史