日本の全大学が「数理・データサイエンス(DS)・人工知能(AI)」教育に取り組む大きなうねりが起きようとしている。きっかけは内閣府の「AI戦略2019」策定で、大学生1学年あたり約50万人すべてが学部1、2年次に「リテラシー(読解記述力)レベル」を学ぶという、これまでにない規模の計画だ。企業のDS人材ニーズも高く、就職・採用活動もにらんで全学開講などを急ぐ大学の急増が予想されている。(取材=編集委員・山本佳世子)

DS全学化「教員不足」課題

「DSの専門家が学内におらず、専門外の教員が担当せざるを得ない」「人的リソースがなく、大学に求められる内容と質を整備できない」「非常勤講師でよいので紹介サイトなどないか」―。文部科学省事業で活動する「数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム」が、2020年12月に公表した第2回調査の自由記述欄には、こんな声があふれる。コンソーシアムの北川源四郎議長は「DS教育の課題はなんといっても教員不足」と強調する。

総合大学であれば数理(数学や線形代数など)は、従来の教養教育で提供しており教員もいる。しかしDSやAIに踏み込むと、お手上げの大学が少なくない。受験生増が期待できるDSの学部・学科の新設が相次ぐ中、DSを専門とする教員は争奪戦でもある。

しかしここへ来て、期待を持てる状況も出てきているという。大量の学習者に対応できるオンデマンド型のe―ラーニングの活用だ。「以前は難しいと思っていたが、新型コロナウイルス感染症拡大で、オンライン授業を皆が経験したことで変わってきた」と北川議長の声は明るい。DSは分析のプログラミングなど、実際に手を動かす演習が欠かせない。しかし座学の講義の部分ならeラーニングで問題ない。

コンソーシアムはAI戦略が策定される前の17年度から、国立大学を中心に活動し、分科会でまとめたカリキュラムや教材を他大学に活用してもらうべく公開している。加盟は当初からの六つの拠点校、拠点校の活動を参考に学内整備を進める協力校、特定学部などの特定分野拠点校、さらに公私立大学も入った連携校と、100を超えて拡大している。

※新連載では、独自のモデル開発とそれを地域ごとに広げる役目がある拠点校と、協力校のうちの先進事例を取り上げる。初回はコンソーシアムの事務局・まとめ役も務める東京大学の数理・情報教育研究センター(MIセンター)だ。

東京大学/新科目と合わせ体系化

東京大学はMIセンターを17年に設置し、教員40人弱のうち半分ほどを専任とする。駒場キャンパス(東京都目黒区)における低学年での全学教育でまず、基礎統計やアルゴリズム入門などバラバラにあった科目を集めて、MIセンターの新設科目と合わせて体系化した。

数学教育強み

東大は理工系学生向けの数学教育がしっかりしているのが強みだ。しかし人文科学系の学生だと高校の数学で学ぶ範囲が狭いため、行列を学んでいなかったり指数関数を知らなかったりする。そのため大規模大学ほど一般に、DSの全学必修化はハードルが高いという。東大は全学の底上げに、駒場の充実をキーとしている。

駒木文保センター長(大学院情報理工学系研究科教授)は「統計やプログラミングは、学生によって必要性を感じる時期が多様だ」と説明する。学部高学年の3、4年生になってのこともあれば、大学院生で学び直すケースもある。

誰でも学べる

そのため「希望者は(学年や所属によらず)だれでも学べる仕組み」(駒木センター長)を整えて、“全学での学び”を保証する。高学年の学生が本郷キャンパス(同文京区)から、駒場の科目をオンラインで学ぶ形が、今後は珍しくなくなるかもしれない。

東大がまとめ役のコンソーシアムは、「リテラシーレベル」のモデルカリキュラムや教材を約1年前に整備し、公開している。この3月末には全学生の半分が、3、4年生で学ぶ「専門基礎レベル」のモデルカリキュラムを公表する予定だ。

一方でMIセンター独自に、東大理工系の3、4年生向けの難しい講義も、ホームページにアップしている。多様な大学に目配りしつつ、高いレベルをリードするのは東大ならでは、だ。

相乗効果期待

さらにDSの標準言語「Python」(パイソン)のプログラミング入門での受講生の急増を受け、自動採点システムを学内で開発し、導入した。大規模なオンライン教育での活用が期待できるという。全国の全大学の学びに向けて、さまざまな取り組みの相乗効果が、期待されることになりそうだ。