「世間が無理だと言っていることほど、案外芽が出るかもしれない。他の人間、あるいは他社とどのように違うのか、追求するのが成功のカギだ」。

辻理会長兼最高経営責任者(CEO)が掲げるこの持論が、独自路線を貫く半導体製造装置メーカーであるサムコの原点だ。一般的なシリコン製の半導体ではなく、加工が困難とされる炭化ケイ素(SiC)などの化合物半導体に特化することで業界内で存在感を発揮し、成長してきた。その持論をひもとくと、きっかけは創業までの経験にあった。

1970年代後半、辻氏は米航空宇宙局(NASA)のエイムズ研究所(カリフォルニア州)でプラズマや薄膜技術に関する研究をしていた。すぐそばには起業家の聖地シリコンバレー。大学教授が研究のかたわら、専門分野の知識をいかして起業する姿などを見て「ハングリー精神や人と違うことをする気風に大きな影響を受けた」。

 帰国後、大手電機メーカーから、非晶質(アモルファス)シリコンを使った太陽電池開発のため、プラズマ化学気相成長(CVD)装置を作ってほしいという依頼を受けた。当時、非晶質シリコンは使い物にならないというのが定説だったが、試行錯誤の末装置を開発。非晶質シリコン太陽電池の日本初の実用化に貢献したことで、業界内で評価を獲得し、手応えを掴んだ辻氏はサムコを起業した。

他社との差別化を追求し、目指す姿として掲げるのが、研究開発型の企業として独自技術を持ち、下請けはやらない「グローバル中堅企業」だ。世間のニーズを迅速に把握するための直販体制と、設計などの重要な工程以外は協力会社に委託するファブライト方式で、研究開発に集中できる体制を構える。

「独創的な技術を持ち、大企業より柔軟に活動し世界に挑む企業が昔も今も、日本の成長をけん引してきた」。

起業したてのころは経営や財務のことが分からず苦労した。助けてくれたのが、取引のあった銀行の理事長だった。辻氏の他にも地域の30―40代の経営者を集め、経営について学ぶ勉強会を開催してくれたという。

「事業では人的ネットワークが重要。この人と出会っていなければ、今はなかったと思う出会いがたくさんある」。

現在、産学連携支援やベンチャー支援など、社会貢献活動にも尽力する。「これまでいろいろお世話になった。順繰りやな」と次の世代へバトンをつなぐ。(京都・小野太雅)

【略歴】つじ・おさむ 65年(昭40)立命館大理工卒。分析機器メーカーを経て、76年NASAエイムズ研究所入社。79年サムコインターナショナル研究所設立し社長。04年サムコに社名変更。18年会長。京都府出身、80歳。


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