政府の教育未来創造会議による第一次提言に対し、大学関係者の間でとまどいの声が出ている。自然科学の学生を増やす一方で文理横断が示され、文言の真意が理解しづらいためだ。ポイントは産業界など社会が求める人材育成に向け、専門性追求の縦割りを廃する各大学の教育改革といえそうだ。(編集委員・山本佳世子)

教育未来創造会議がまとめた第一次提言は「現在35%の自然科学系の学生比率を経済協力開発機構(OECD)諸国で最高水準の5割程度に」と掲げた。さらに学部・学科などの再編、文理横断や科学、技術、工学、芸術、数学などを総合的に学ぶSTEAM教育、理工農系の女子学生増などで相乗効果を出す政府の方策を記している。

文理横断は「これからの高等教育の大きな課題だ」と内閣官房教育未来創造会議担当室は強調する。学生の専門選択時期の後ろ倒しや複数の専門性獲得などへ転換を促す。高校からの文理の分断をなくすべく、入試科目の見直しも挙げる。

しかし幅広い学びの重要性は以前からいわれていた。何が違うのか。理系増に向けた文系減を促すわけでもない。

これについて永田恭介筑波大学学長は「データサイエンス・人工知能(AI)など急速に進む時代に文理は関係なくなる。しかし学生がそれなりに数学を学んでいないと対応できない」と説明する。さらに「理系の教養も文系の教養もいる。各大学がいかに教育プログラムを作っていくかだ」と投げかける。また早稲田大学の政治経済学部の入試で、数学を必須化した田中愛治総長は「日本のデジタル化の遅れは文理を分ける教育が要因だ」と指摘する。パンデミックやウクライナの問題を例に、早大は文理のインターフェース(接する部分)の教育をしていく方針だ。

「社会が求めるのは専門性を社会のために使いこなす人材だ」と説明するのは、バイオベンチャー社長の経歴を持つ三重大学の西村訓弘教授(宇都宮大学特命副学長)だ。つまり文理の専門を掘り下げる教員だけでは対応できない。「総合的に“知識を社会で生かす”ことを教えられる教員が、全体の2割ほど必要だ」と大学の転換を呼びかける。

提言では理系でより高い学科創設時の「標準設置経費」の規制緩和も挙げる。「再編を複数年度で後押しする国の基金新設が念頭にある」(同会議担当室)ほか、理系女子向け「官民共同修学支援プログラム」創設も明記。授業料の卒業後の返還(出世払い)も理系に多い大学院からの導入でにらんでいる。