―[S級グルメ]―

 サラリーマンたちが並んででも食べたいランチは、どんなに旨いのだろうか。夜は満席、昼は行列ができる居酒屋に記者も並んでみた。

◆ゲンコツ唐揚げ、極上大トロ…行列のできる居酒屋極上ランチの魅力

 サラリーマンにとって、ランチは一大イベントだ。「今日は並んででも、あの店のラーメンを……」とか、「今日は新しい店を開拓しよう!」などなど。サラリーマンにとって、昼の休憩1時間にかける思いは並々ならぬものがある。

 まず、訪れたのはサラリーマンの街、新橋。「新橋で唐揚げといえば……」と評判の「Dining Bar TAO」だ。店に入ると、そこかしこのテーブルの上には、唐揚げが山盛りになった皿が置かれ、サラリーマンだけでなく、一人で来た女性客も皆一様に笑顔で頬張っていた。もちろん記者が注文したのも若鶏の唐揚げ定食だ。

 運ばれてきた定食を見て驚いた。ゲンコツ大の唐揚げが、1個、2個……5個! そんな唐揚げ山からニンニクと醤油の香りが漂い、いやが上にも食欲を刺激する。ためらわず、かぶりついた。

 カリッ! ジュワッ!

 これぞ唐揚げと言わんばかりの食べ応えに、記者も思わずニンマリ。やわらかな肉を噛むとほとばしる肉汁にニンニクと醤油の味が絶妙にマッチする。そして、ピリリとしたパンチの効いた唐辛子が、後引く旨さを演出。

 最初はこんなの食べきれるわけがない……と思った唐揚げの山は、見る見るうちになくなり、気がつけば皿の上は“更地”になっていた。

「ベースはニンニク醤油で、豆板醤などの辛みを含めたタレに漬け込んでいます。このタレの味に行き着くまで、5年ほどかかってしまいました」

 オーナーである西村昌晃さんの、唐揚げに対する情熱はかなりのものがある。

「鶏肉をさばくときに、スジと余計な脂身を細かく取り除いています。“肉しか入っていない”というイメージですね。唐揚げ5個だと重たいと思われますが、衣も片栗粉で揚げていますから、油のキレがいいんです。だから、それほどもたれないと思いますよ」

 新型コロナの影響で現在は減ってしまったというが、それでも一日に80㎏もの鶏肉を仕込むという。

「最初は普通のサイズだったんですよ。でも、新橋で働いている人たちに頑張ってもらいたいという意味を込めて、ボリュームアップを続けていたら、どんどん大きくなってしまいました(笑)」

 店から出てくる客たちは皆、腹をさすりながら満面の笑み。その光景に記者も思わず顔がほころんでしまった。

▼Dining Bar TAOの若鶏の唐揚げ定食
ゲンコツのような大きさの唐揚げが5個とスパゲティ、キャベツと具だくさんの豚汁がついたフルボリュームの若鶏の唐揚げ定食はインパクト大。豚汁の旨さも特筆すべきものがある。900円

◆とろけるような極上鮪の稀少部位

 肉を堪能したからには、魚も……というわけで、続いては築地の名店、「ふじむら」を訪ねた。

 こちらの名物である鮪の脳天刺しとなかおちを両方食べることができる裏メニュー、ハーフ&ハーフを迷わず注文した。

 赤とピンクの身の色が白い皿に映え、食欲をそそる。まずは稀少部位である脳天から味わう。大トロのような食感と濃厚な味わいに、思わずうっとりしてしまった。続いてなかおちは、ご飯にのせてプチ丼にしてかき込んだ。こちらは脳天とまた一味違い、“身の旨味”に脂の旨さが加わり、ご飯が進んでしかたがない。店主の藤村潤也さんに話を聞いた。

「脳天は『ハチの身』ともいわれている鮪の首のつけ根部分にある肉なんですが、120㎏以上の鮪になると、スジが強くなってしまうんです。70〜80㎏クラスの鮪の脳天だとスジもあまりなく旨い。ウチで出しているのも、このクラスの鮪の脳天です」

 稀少部位をさらに厳選して提供できるのは、長年にわたって築いてきた業者との信頼関係があってこそだと藤村さんは語る。

 それにしても旨い。ずっと食べていたい……。そんな気持ちになりながら、小鉢も平らげる。フーッと一息。昼からの仕事も頑張れるなと、気持ちを新たに店を出た。

▼ふじむらの鮪脳天刺し&なかおちハーフ定食
鮪脳天刺しとなかおちのハーフ定食(税込み1100円)は7月から月・水・金曜のみ提供できる裏メニュー。脳天刺しは一日限定10食、なかおちは限定20食。夜に脳天刺しを味わいたい場合は要予約

◆ランチ営業をめぐる居酒屋の苦労と喜び

 今でこそ当たり前となっている居酒屋のランチだが、夜と比べると客単価は3分の1以下になる店も珍しくなく、売り上げ的には夜の“本業”で稼ぎたいという店も少なくない。

 だが、「ふじむら」の店主、藤村さんはランチ営業について胸を張る。

「雨でも雪でも並んでくれるお客さんを見ると、頑張ろうという気になります」

 飲食店はコロナの影響でどこも悪戦苦闘している。心のオアシスでもある居酒屋を、我々は食べて支援の精神で応援したいものだ。

取材・文/森田光貴 長谷川大祐(本誌) 撮影/渡辺将志

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