国道沿いやフードコート、スーパーの軒先などで唐揚げ店をよく見かける昨今。それもそのはず、空前絶後の唐揚げブームが到来しているというのだ。一体何が唐揚げブームの再燃を牽引しているのか? その舞台裏に迫った。

◆外食控えが懸念されるなか、唐揚げ人気が急上昇!

 コロナ禍により外食産業が苦戦を強いられている現在、唯一と言ってもよいほど躍進し続けているジャンルがある。それが唐揚げだ。

 実際、唐揚げ専門店(唐揚げがメニューの7割を占める店)の市場規模は’19年に853億円だったところ’20年には1035億円(’20年6月、富士経済発表「外食産業国内市場調査」より)に拡大。これは同調査のほかの業態を遥かに凌ぐ数値だ。日本唐揚協会専務理事の八木宏一郎氏は現況を解説する。

「唐揚げが外食産業に登場した’63年頃からローソンで『からあげクン』が出る前の’80年代後半までの年月を業界では第1次唐揚げブームと呼んでいます。’74年に日清製粉が家庭用唐揚げ粉を発売してからは食卓のおかずとしても定着、その後コンビニレジ横フードの主力商品に成長し、おやつ感覚で食べられるようにもなった。現在は’09年から続く第2次ブームの中にありますが、それが今、最高潮に達しているのです」

 第2次ブームは’09年、唐揚げ専門店発祥地である大分県宇佐市の名店「とりあん」と、唐揚げの聖地と呼ばれる同県中津市の超人気店「もり山」が東京に進出したことに端を発するという。

「それまで東京にはなかった専門店という業態がメディアに注目され、大手チェーンやスーパーも唐揚げに注力し始め今に至ります」

◆近年の「唐揚げブーム」の要因は?

 では、近年の盛り上がりは何が原因なのか?

 専門店の普及による継続的な味の向上はもちろんだが、実は第2次ブームを下支えしてきたのが天災や不景気。それがコロナ禍で再来したことも大きい。

「’08年のリーマン・ショック以降、消費者の節約志向が高まったことで、安価で栄養豊富な鶏肉の需要が増え、口蹄疫問題による牛肉豚肉離れも需要増大に繫がった。さらに’11年の東日本大震災で、首都圏に鶏肉を流通させていた岩手県をはじめとする東北の大養鶏地帯が被災し出荷量が激減。代わりにブラジル産の鶏肉が大量に輸入されたが、船便で半年かけて輸入している間に国内養鶏が復旧したことで流通量がダブつき、値崩れが起きたのです」

 そこにきて今年は、コロナ禍により同じように鶏肉需要の増加が起きているという。

「多くの人が巣籠もり生活を送るなかで、安価で節約にも繫がり、テイクアウトができてしかもおいしいという点にさらなる注目が集まっているのが要因と言えます」

◆唐揚げブームの歴史

1700年 中国から伝来
清の乾隆帝が巡視で開封を訪れた際に持ち帰った鶏肉揚げ料理「炸八塊」が発端となり、その他地方の同様の食品と融合し日本に伝わったとされる。

1932年 外食に唐揚げ登場
銀座「三笠會館」で初めてメニューに登場。

1963年 第1次唐揚げブーム
欧米からのブロイラーの導入により鶏肉生産効率が飛躍的に向上。外食産業に唐揚げが定着、同時期に大分県中津市、宇佐市で唐揚げ文化が発祥し、主要都市に拡大。’74年に日清製粉が発売した「日清から揚げ粉」により家庭にも普及。

1986年 コンビニにて唐揚げ販売開始
ローソンがレジ横のホットスナックコーナーで「からあげクン」を提供開始、他店もそれに続く。ローソンは現在までに250種類以上を販売。

2009年 第2次唐揚げブーム
リーマン・ショックによるデフレ、その後の震災の影響で鶏肉価格が下落し唐揚げ需要が拡大。さらに大分県中津市・宇佐市の有名唐揚げ専門店が東京に出店したのを機に、唐揚げの普及が加速。

2020年 唐揚げ専門店が爆発的に増加
唐揚げ専門店に大手外食チェーンも参入し2018年の1408店から2487店に急増。各スーパー惣菜部門も唐揚げに注力を開始。

◆調理法の改善により唐揚げの味も進化

 唐揚げ自体もここ2年前後で変貌を遂げている。唐揚げを年間300食以上食べ歩くフードライターの松本壮平氏は、「居酒屋の人気メニューランキング上位に毎回必ず唐揚げが入ることで、大手外食チェーンやスーパーが開発に力を入れているため」と話す。

 そして、近年の調理法の変化とサイズアップも拍車をかけている。

「粉を肉にまぶすブレッダータイプが、専門店以外にも普及しました。衣が厚いと油を吸って味が落ちるからです。数年前までは衣と肉の比率がひどいものでは3:7程度だったのが昨今では1:9ほど。肉色が透けて見えるほど下処理の粉が薄い専門店もありますが、肉の旨味を生かすにはそれで十分。

 おかげで、ここ数年はまずい唐揚げに遭遇する率が格段に下がったように思います。スーパーも同じ調理法を導入したことで、お惣菜の唐揚げの味が1〜2年ほど前に比べ飛躍的に向上しました」

 また、有名専門店では一つの大きさがゴルフボール大の35g程度から一回り大きい50〜60gのものが主流になった。

「断面が増えると旨味が逃げやすくなるのが理由の一つです」

 消費動機と時勢の適合、基本的に原価率が安く抑えられる点などの条件が揃って加速した昨今の唐揚げブーム。その勢いはしばらく止まりそうにない。

◆「金賞」唐揚げがやたらと多い理由とは

 唐揚げの購入時、「からあげグランプリ金賞受賞」の文字をやたらと目にしたことはないだろうか。

 それもそのはず。「からあげグランプリ」(主催:日本唐揚協会、以下KG)は一つだが、部門別の金賞が全部で約80個以上もあるのだ。「素揚げ・半身揚げ」「手羽先」「チキン南蛮」「塩ダレ」。そして「しょうゆダレ」「味バラエティ」「スーパー惣菜」……なかには東、中、西日本に分かれている部門もある。

「初期の大会では『唐揚げ』は5部門のみでしたが、ラーメンにスープの味やご当地カテゴリーがあるように、唐揚げもここ10年で味や部位で人気店が分かれるようになりました。そうした現状を反映した結果です」(前出・八木氏)

 つまり「金賞」の多さは、唐揚げの多様化を反映したもの。部門別に最高金賞が選ばれ、その中で頂点となる「グランドチャンピオン」が決まる。別途開催の「スーパー総菜部門」もすでに11回目を数え、今年はイトーヨーカ堂、平和堂、フレスタが地域別で最高金賞を受賞した。

 唐揚げ金賞ブームもまだまだ続きそうだ。

【日本唐揚協会専務理事・八木宏一郎氏】
学生時代より各地の名物料理を食べ歩く。’08年、現会長のやすひさてっぺい氏とともに日本唐揚協会を創設。唐揚げブームの火つけ役となる。

【フードライター・松本壮平氏】
ライター・編集者として寄稿やインタビューを行う傍ら、「からあげライター」として年間300食以上食べ歩く。唐揚げの“聖地”大分県中津市出身。

<取材・文/週刊SPA!編集部>
※週刊SPA!12月1日発売号の特集「唐揚げブームの舞台裏」より

―[唐揚げブームの舞台裏]―