―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―

◆カーマニアとクルマと相撲

昭和の大横綱・千代の富士の鍛え上げられた鋼のような肉体を見て、「カッコいい!」「すげえ!」と思うのはオジサンだけではないでしょう。千代の富士を知らない世代が千代の富士の写真を見て、素直にカッコいいと思うんですから。そんな直感的に「カッコいい!」と思えるクルマがBMWの新型2シリーズ。懐古趣味が多いカーマニアは、一瞬にして心を奪われました!

永福ランプ(清水草一)=文 Text by Shimizu Souichi
茂呂幸正=写真 Photographs by Moro Yukimasa

◆BMWの新型クーペは、現代によみがえった昭和の大横綱・千代の富士だ!

 我々、中高年カーマニアは非常に保守的で、基本的に「クルマは昔のままがいい」と考えている。その姿勢は、どこか相撲協会に似ている。今どきチョンマゲ+「外出時は着物を着ろ!」なんて、そんな世界があること自体驚異だが、実はカーマニアも、クルマに似たようなことを求めているのだ!

 まず、駆動方式はFR(フロントエンジン・リヤドライブ)でなくてはいけない。カッコはスポーティな2ドアクーペがベスト。オラオラグリルは風紀を乱すので禁止。さらには、できるだけコンパクトで軽いほうが望ましい。それが全部揃ってこそ、カーマニアが考える「真に正しいクルマ」なのである。力士で言うと千代の富士でしょうか。

 もはやそんなクルマ、ほとんど残ってない。コンパクトで軽いクルマは、たいていFF(フロントエンジン・フロントドライブ)になっているし、2ドアクーペなんて売れないから絶滅寸前だ。巨大なオラオラグリルも今や定番。つまり、カーマニアが考える「千代の富士のような正しいクルマ」は、空想上の存在になりつつある。

◆これぞ理想的な細マッチョ!

 ところが! 突如としてその千代の富士が復活した! BMW新型2シリーズクーペである。

 いや正確には、2シリーズクーペは、先代からほぼ千代の富士だったが、体形がややアンコ型で、私の好みじゃなかった。やっぱりクルマはカッコよくてナンボ。中高年にとっての理想は、初代ソアラや2代目プレリュードのような「シュッとスマートなクーペ」なのだ!

 新型は、まさにそんなカッコになっていた! これぞ理想的な細マッチョ! この、2ドアだけどトランクが独立した「ノッチバッククーペ」スタイルも、初代ソアラや2代目プレリュードと同じ! まるで’80年代デートカーの再来じゃないか〜〜〜〜っ!

◆駆動方式もFRベースを踏襲!

 駆動方式もFRベースを踏襲! さらには、近年巨大化が著しいキドニーグリルも、控え目な大きさを守ってくれている。私は見た瞬間、「奇跡だ!」と叫んだ。なぜ今どき、こんな復古的なクルマが出たのだろう……。おそらくこれは、BMWから中高年カーマニアへの最後のプレゼントだ。アナタたちの理想通りのクルマを作ってあげましたよ、という。そうとしか思えない! BMW様ありがと〜〜〜〜っ!

◆エンジンは2種類

 エンジンは2種類。4気筒の2リッターターボ(184馬力)と、直6の3リッターターボ(387馬力)である。カーマニアなら当然直6に食いつきたくなるが、あまりにもパワフルなため、駆動方式がFRではなく、4WDになっている。車両重量も1710㎏と重い。乗っても、安定して速すぎて、どこか面白くなかった。これはミニ白鵬だ。千代の富士じゃない!

 一方4気筒の「220iクーペMスポーツ」は、すべてが理想通りだった。動きはFRらしく軽快で、パワーもちょうどいい。184馬力という数字は控え目だけど、初代ソアラは170馬力。それで日本国民全員が憧れた。184馬力もあれば、立派な千代の富士になれる!

◆あまりにも気持ちイイ!

 私はこの220iクーペMスポーツで首都高を走り、目頭が熱くなりました。なんてステキなクルマだろう! すべて思い通りに動いてくれる! カーブを曲がるときの感覚があまりにも気持ちイイ! エンジンも軽快に回って最高! 思わず座布団投げたくなるう〜〜〜っ!

◆お値段は…

 お値段は550万円。決してお安くはないが、高くもない。中国ではアルファードの新古車が3000万円で売られているというから、それを考えれば安い! 安すぎるじゃないですか!

 しかも3年後には、中古車が400万円くらいで買えるだろう。よし、400万円を切ったら、いま乗ってる先代3シリーズを売ってこれに買い替えよう! この、千代の富士のようにすべてが正しいクルマに乗って、青春を取り戻そう! カーマニア冥利に尽きまする。

◆【結論!】

世の中がどんなに変わろうとも、若いころの刷り込みはどうにもならない。オレの女性のタイプは斉藤由貴や菊池桃子!クルマで言えばこういう感じなんだよ〜〜〜〜〜っ!

【清水草一】
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中。清水草一.com

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