◆団塊の世代が高齢ドライバーに

2019年、白昼の交差点で、2人の命を奪い9人の負傷者を出した東池袋自動車暴走死傷事故が起き、世間に衝撃を与えた。その後も、高齢者による交通事故のニュースはいまだに目立っている。しかし、東池袋の事故の以前から、高齢ドライバーによる自動車事故は問題になっていた。

警察庁は高齢者の交通事故を減らす目的で、2017年に75歳以上の高齢者が運転免許を更新する際に、認知機能検査を導入した。そして2022年5月13日に、「認知機能検査」の内容が変更になった。検査問題が簡素化され、さらに特定の違反行為をした者を対象に「運転技能検査」が導入。技能検査がクリアにならないと「認知機能検査」が受けられなくなった。

いま団塊の世代が75歳を迎えていて、これからさらに高齢ドライバーが増える。現在の高齢者の免許更新の現場がどのような状況なのかを、現在は『速報版 認知機能検査模擬テスト』が発売されている『認知機能検査模擬テスト』シリーズの取材を行った警視庁と都内の自動車教習所の所員に改めて話を聞いた。

◆認知機能検査は簡素化される!? イラストの問題は変更なし

認知機能検査とは75歳以上の免許更新時に受ける筆記検査のこと。

「認知機能検査は、検査を受けた方が記憶力・判断力が低くなっているかどうかを、簡易に確認するもので、医学的な診断を行うものではありません」(警視庁)

これまでの内容は、今現在の年月日や曜日、時刻を答える「時間の見当識」、検査会場で提示される16種類の絵を覚えて回答する「手がかり再生」、紙に時計の絵を描く「時計描画」で構成されていたが、5月13日から「手がかり再生」「時間見当識」だけになった。

ただ検査の難易度は非常に低く、この検査で最低分類(記憶力・判断力が低くなっている)と判定された場合、自動車の運転どころか日常生活にも支障が出ているに違いない。実際、検査会場で、どう見ても大丈夫か? と思える老人が受検することもあるそう。

「受検者の中には、回答どころか自分の名前を書くのもおぼつかない方がいらっしゃることもあります。『時計描画』の問題のときに、受検者から『(検査会場に)時計もないのにわかるわけがないじゃないか』とすごまれて、頭を抱えたこともあります」(都内教習所勤務A氏)

こういった例はごく一部だが、2017年の認知機能検査の実施状況を見ると、認知機能検査を経て最終的には全体の98.2%の高齢ドライバーが免許の更新を完結できているのだ。

認知機能検査の問題点のひとつとして「高齢者の事故の原因は認知機能の問題だけではなく、身体的能力の衰えも大きくかかわってくる」ということが挙げられる。

もうひとつの大きな問題として「98.2%の高齢者がパスする認知機能検査の実施にあたり大きな手間暇がかかっていた」ということだ。それに加えて、今後、団塊の世代が75歳以上になり「認知機能検査」を受験する人が急増するため、それらの人たちへの対応も大変になってくる。

「認知機能検査は採点にかかるリソースが大きいです。とくに時計描画の問題が大変で、1個の時計の絵を採点するのに『1から12までの数字のみがかかれているか』『数字の順序は正しいか』など、合計7つの採点基準にしたがって細かく見ていかなければなりません。これがもう本当に大変な手間で」(都内自動車教習所所員A氏)

今回の改正では、3分類あった判定結果も2分類に削減するなど、大幅な簡素化を図った。さらに認知機能検査の代わりに医師の診断書も用いることができるようになり、3分類あった判定結果も2分類に削減、検査自体の大幅な簡素化を目指している。

◆「運転技能検査」の新設! 受験者も判定者も不安?

今回の改正では、実車に乗って行う「運転技能検査」が新設された。

免許を更新する75歳以上の高齢者は、過去3年間に重大事故につながりやすい一定の交通違反歴(信号無視などの11類型の違反)があるとこの検査を受検しなければならない。そして、「運転技能検査」をパスしないと、「認知機能検査」が受検できないのだ。

この検査は試験場でも自動車教習所でも受検できるのだが、受験者も判定者も不安がある可能性が……。

「違反歴のある受講者は全国で1万人ぐらいいるという話を聞いています。その高齢ドライバーたちが、慣れない車で慣れないコースを走る。受検者も不安かもしれません」(都内自動車教習所所員B氏)

「これまで教習所では高齢者講習と言う免許更新時に必要な実車運転を伴う講習を行ってきましたが、これはあくまで検査ではなく講習。どんなに運転能力が低くても受講すれば証明書を発行してきました。しかし、今後は合否を通知しなければなりません。高齢者を相手に実技検査を行うのがはじめてのことなので、通知時にトラブルになるかもしれないと思うと、不安もあります」(都内自動車教習所所員A氏)

認知症ではなくても、年齢に伴った身体能力の衰えによる運転技能の低下は重大な事故につながりやすいことも確かだ。実際に高齢ドライバーの自動車事故の多くがブレーキとアクセルの踏み間違いだ。高齢によって身体能力だけでなく瞬発力が衰えてきているのも要因かもしれない。

この運転技能検査の新設が高齢ドライバーの交通安全に貢献できるように、導入後の結果に期待が持たれる。

◆家族から自動車暴走老人を生み出さないために…

身内の高齢者が自動車事故を起こさないために、本人や家族が心がけなければいけないことはなんだろうか。

「高齢ドライバーの一般的特性として、個人差がありますが、注意力や集中力が低下していること。瞬間的な判断力が低下していること。過去の経験にとわわれる傾向にあること。等があります。そのため、走りなれた道路でも基本に立ち返り、正しいルールと技能を再確認することが必要です」(警視庁)

また、自動車教習所の職員も口をそろえる。

「年齢を重ねれば心も体も能力が衰えていくのは当たり前のことです。頑固な人もいると思いますが、私たちは『若いころとはちがうんですよ』と伝えていきたい。周囲が上から注意してもあまり効果はないような気がします。本人に自覚してもらうことが一番大事です」(都内自動車教習所所員B氏)

やはり家族にとっては、親の晩節を汚しては欲しくないと思うのは人の心。

その一方で、事故を起こしてからでは遅いので親に自主返納を勧めたいが、とは言っても住環境によっては生活の足を失うことになるで、返納をためらうケースも多い。高齢ドライバー本人とその家族が常に話し合っていく必要があるのかもしれない。

【参考資料】「第5階 高齢者の移動手段の確保に関する検討会説明資料」(警視庁)