何かしらの値上げが連日ニュースとして流れてくる。経済が停滞し、物価が上昇し続ける“スダグフレーション”は深刻だ。消費者である我々の生活は当然苦しい。でも、もっと苦しい人たちがいる。「値上げ」という苦渋の選択をした数々の“現場”を直撃。今回は洋食屋を取材した。

◆大幅値上げでも量と味は「変えない」美学を貫く

 高円寺で半世紀以上続く洋食屋「ニューバーグ」。店を営む平井誠一さん(56歳)は弟の仁さん(52歳)と共に、初代オーナーから父へと繋がれた味をカウンター席しかない小さな店で継承している。店外にも店内にも飾られたやや色褪せたメニュー写真が、昭和の面影を色濃く残す。券売機でチケットを買い、仁さんに渡すと、すぐさま調理し客を待たせることなく料理を提供する。そんな歴史ある店が4月に入り、メインメニュー全品約10%の値上げに踏み切った。現在の心境を誠一さんが語る。

「高円寺という物価が安い土地柄ゆえ『お客様は引いてしまうのでは?』と値上げには抵抗がありました。ただコロナ禍での原材料の高騰、これがもう半端じゃない」

 コロナ禍前と比べると、ラードは原料である豚脂の高騰により15㎏1400円増、スパゲッティ16㎏1300円増の値上げ。極めつきは、コロナ禍で流通量が減少した牛肉の価格変動だ。「牛肉が1㎏300円ほど高くなったことで、大幅な値上げを決断しました」と誠一さんは肩を落とす。

「これまで必ず680円でハンバーグが2枚ついた『ダブル』を注文していた60代の常連さん。券売機で750円に値上がりしたのを見て、初めてハンバーグ1枚のセットを買っていました。『しょうがないよね』と言ってくれるお客様もいる一方、『これまでの価格のまま頑張れないの?』という声も少なくない」

◆値段は変えても量と味は変えない

 それでも通い続ける常連客を見て、「わかってくれてる」と誠一さんは安堵する。

「帰り際に『値段が高くなろうが僕は来るからね、ここのファンだから』というお客様の声を聞くと、感謝しかありません。商売人にとって値上げは一番つらいから」

 とはいえ、値段は変えても量と味は変えないのが、ニューバーグの老舗としてのプライドだ。

「子供の頃にウチの料理を食べて育った方が、自分の子供をお店に連れてきて『変わってないね。おいしかった』と仰ってくれる。お客様も2代、3代と引き継がれているんです。量は減らさず、“THE男飯”も守っていきたい」

◆手作りで勝負する飲食店

 お店の看板であるデミグラスソースやメキシカンソースは“今風にアレンジしてみました”ではなく、“何も変えていない”のがここの売りだ。

「私たちのように手作りで勝負する飲食店は、どうしても手間暇がかかる。だからこそ、値上げさせてくださいという気持ちです」

 平井兄弟が誰よりもニューバーグのファンとして、店の継続を願っている。決して派手ではないけれど、何度でも食べたくなる味。高円寺のソウルフードは、これからも健在だ。

◆<値上げの3大要因>

ラード⇒54%UP

牛肉⇒50%UP

スパゲッティ⇒33%UP

【平井誠一さん&平井 仁さん】
父から「ニューバーグ」を引き継いだ平井兄弟。兄・誠一が経営関連を、弟・仁が調理を担当。「サービスセット」が一押しメニュー

【ニューバーグ】
高円寺で愛される創業53年のハンバーグステーキ専門店。東京都杉並区高円寺北 11:00〜22:00 休:年末年始

<取材・文/週刊SPA!編集部>

―[意外な[値上げ現場]の断末魔]―