何かしらの値上げが連日ニュースとして流れてくる。経済が停滞し、物価が上昇し続ける“スダグフレーション”は深刻だ。消費者である我々の生活は当然苦しい。でも、もっと苦しい人たちがいる。「値上げ」という苦渋の選択をした数々の“現場”を直撃。今回は10円20円の商品を扱う駄菓子屋の苦労を取材した。

◆駄菓子屋“2円”の値上げが大打撃。人気商品でも取り扱い中止

 安産・子育ての神が祀られ、国の重要文化財に指定されている雑司ヶ谷鬼子母神堂の境内に、駄菓子店「上川口屋」はある。趣のある木造の建物は自宅を兼ねており、13代目の店主・内山雅代さん(82歳)は、祖母、伯母から受け継いだ店をひとりで切り盛りしている。

「ウチは今年で241年目。関東大震災でも東京大空襲でも奇跡的に無傷だったんですよ」

◆うまい棒、仕入れるのをやめた

 ハキハキと明るい口調で内山さんが話す。しかしこの春、思いがけない値上げが同店を襲った。人気の駄菓子「うまい棒」が、商品誕生から42年で初めて価格を改定し、4月1日出荷分より2円値上げしたのだ。これを機に、上川口屋からはうまい棒が消えた。

「1本10円というわかりやすい値段だったこともあり、うまい棒はウチでも売れ筋でした。ですが1本12円になると、店では消費税をかけて13円で売ることになる。あまりにも勘定が厄介だから、仕入れるのをきっぱりやめました」

 駄菓子の場合、商品の仕入れ値は小売価格の約80%。小売価格12円のうまい棒なら仕入れ値は9.6円となり税込み13円で売れても利益は3.4円しかない。人気商品の扱いをやめるのは名残惜しいが、現金支払いが基本の駄菓子屋では利益に見合わぬ手間がかかる。

◆「するめ」1枚30円⇒100円

 原材料や物流コストの高騰で、値上がりした商品は他にもある。

「仕入れ値が上がって、とうとう『ココアシガレット』と『ビッグカツ』が30円から40円になり、『ねりあめ』は40円から50円に値上がり。『モロッコヨーグル』は少しずつ容器が小さくなって、これも実質上の値上げね」

 大人にも人気の「するめ」は、昔は1枚30円だったが、約5年前から続くイカ不漁も影響し今は100円だ。

「酔っ払い客がするめを買いに来たから『100円です』って言ったら、『ぼったくってるだろ!』って怒鳴られたこともあります。消費税率が5%に引き上がった’97年、ついに消費税をつけるようになったときも『駄菓子屋のくせに夢がない』って散々言われました」

◆子供たちは冷静

 だが、駄菓子の値上げに憤るのは古き良き子供時代を過ごしてきた大人が中心で、当の子供たちは冷静な様子だという。

「最近の子供たちは、景気が悪いことで物の値段が上がることを『仕方ない』と納得しているように感じます。子供の数も減ったし、今はコンビニでも駄菓子が買えるし、厳しい時代になりました」

 それでも内山さんが駄菓子屋を続けるのは、お金に代え難い喜びや楽しさがあるからだ。

「子供って面白いのよ。何歳になっても好きなお菓子が同じなの。『あなたはいつもこれを買うわね』って言うと、『うれしい、覚えていてくれたの?』って喜ぶ。そういう顔を見ると、元気なうちは頑張らなくちゃって思うんです」

◆<値上げの3大商品>

ココアシガレット⇒10円UP

ビッグカツ⇒10円UP

ねりあめ⇒10円UP

【内山雅代さん】
1781年創業の店舗を守る13代目店主。小学3年生からここで育つ。「孫娘が後を継ぎたいって言ってるの」と微笑みながら語った

【上川口屋】
店がある鬼子母神堂は池袋駅から徒歩15分のパワースポットとしても知られる。東京都豊島区雑司が谷 10:00〜17:00 不定休

<取材・文/週刊SPA!編集部>

―[意外な[値上げ現場]の断末魔]―