物価は高騰し、給与は一向に上がらない。スタグフレーションの渦から抜け出せずにいる日本。円安に加え、不安定な国際情勢。明日はどっちだ!
◆ラッシュに備えよ!値上げ時代の傾向と対策
値上げラッシュの節目となった2022年春。しかし、これはまだ序章にすぎないらしい。
経済アナリストの森永康平氏と、節約アドバイザーの丸山晴美氏に、値上げの傾向とその対策について語ってもらった。
丸山晴美(以下、丸山):政府が買い付け、国内の製粉業者に売り渡す輸入小麦の価格を約17%引き上げたことにより、各社が今年の1月に小麦・小麦製品の値上げを行いましたが、年内再値上げとなりそうです。ここ数年は、価格を変えずに容量を減らす“ステルス値上げ”が続いていただけに、消費者のショックも大きかったですね。
森永康平(以下、森永):輸入小麦の売り渡し価格は過去2番目の高水準となりましたね。しかし、この春に行われた小麦製品の値上げは以前から予定されていたもので、北米での不作やコロナ禍の影響による輸送費のコスト増に由来するもの。ウクライナ危機や円安の影響は、まだほとんど小売価格に表れていないと言っていい。
丸山:今後はさらに短いスパンで高い値上げ率が続くでしょうね。
森永:ウクライナ情勢による供給不安により、小麦の国際相場がさらに高騰することが予想され、次の輸入小麦の価格改定が行われる10月には、小麦製品はますます値上がりすることになると思います。
◆食品全体で10%以上の値上げも覚悟
丸山:この春は小麦製品だけでなく、食品全般や日用品の値上げも目立ちました。
森永:コロナ禍からの経済回復による国際需要で、ただでさえ原油価格は高止まりしていました。ロシアは天然ガスや原油、石炭などを世界に輸出する資源大国ですから、ウクライナ情勢の影響は避けられない。戦況が悪化すれば原油価格はさらに上昇すると思います。
丸山:そうなると、食品全般や日用品も、しばらく値段が戻ることはなさそうですね。
森永:はい。原油価格の高騰は、ガソリン代や電気代だけでなく、輸送が必要な製品の価格すべてに関わっています。例えば、イチゴなどのビニールハウス栽培の作物は、暖房に重油ボイラーを使っていますし、あらゆるパッケージのプラスチックも原油が原料。さらに輸送費もかかってきますから、7月までに食品全体で10%以上の値上げも覚悟しないといけない。
丸山:光熱費も年内で30%ほど値上がりしそうなんですよね。
◆年間8万円の負担増
森永:私が試算したところ、年収400万〜500万円の世帯がこれまでと同じ生活をすると、年間8万円の負担増となりました。節約のポイントってありますか?
丸山:大手量販店のプライベートブランド商品は輸送費や包装費などのコストカットに注力しているので、リーズナブルなものが多く、活用するのも手です。
森永:半導体も値上がりしているので、パソコンやスマホなどの電化製品も、必要なものは早く買ったほうがよさそうです。
◆家電の見直しもおすすめ
丸山:家電の見直しもおすすめです。最新の商品は省エネ化が進んでいるので、いっそ買い替えたほうが電気代の節約になります。それが難しければ、エアコンの設定温度を高め、フィルターを掃除するだけでも電気代が変わります。
森永:コロナ禍に値上げラッシュが重なり、事業者の負担も大きいですね。
丸山:値上げに喘ぐ事業者に対して消費者ができる努力というと、スーパーやコンビニで並ぶ商品を“手前から買う”ことでしょうか。値下げ品や賞味期限が近いものから買うと、商品ロス率が減り、小売りの利益率が上がって、値上げへの抑止力となるはずです。
森永:とはいえ、消費者や事業者が自ら工夫する範囲は超え、もはや政府による介入が必要な段階だと感じます。原材料費の高騰が続くなか、コロナ禍で政府が行った無担保・無利子のいわゆるゼロゼロ融資の返済が始まると、倒産件数が爆増するでしょう。一度潰れた産業は復興しません。例えば、銭湯は日本の文化と言えますが、庶民の味方であるため値上げもしづらく、運営がどんどん厳しくなっていて、存続が危ぶまれています。現在の物価高を自己責任として片づけるのはあまりに残酷です。
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給料は上がらず、物価だけ上がる。そんなスタグフレーションの苦しい日々は終わりそうにない。
◆これからさらに値上げ!?
▼小麦
9割が輸入でまかなわれており、政府が一括で買い付け、国内の製粉業者に転売する。半年に一度価格改定があり、ウクライナ危機の影響で秋頃にまた大幅な値上げが予想される
▼原油・天然ガス
コロナ禍からの経済回復に伴う需要の増加に加え、ウクライナ侵攻による、ロシアの輸出停止が影響し、世界的高騰が続く。電気代、ガソリン代、包装費などあらゆるコストが増大
▼輸入牛肉
オーストラリアでは干ばつが影響し、肉牛の飼育数が激減。流通数の減少に加え、日本は中国に値段、量ともに買い負けていることも原因の一つ。円安も輸入価格上昇の要因に
▼海産物
ロシア経由の空輸が滞りノルウェー産サーモンが高騰中。紅鮭の輸入シェアはロシア産が8割、カニやウニも5割を占めるため、値上がりどころか夏以降、店頭から消える可能性も
▼大豆
バイオ燃料需要、降雨不足、コロナ禍の労働力不足などにより’21年から高騰が続く。特に大豆を原料とするサラダ油は4月から40円/kg以上値上げ。今後も高止まりの見通し
▼木材
コロナ禍以降のウッドショックにウクライナ危機が重なり、ロシア産木材の価格はコロナ前の2倍に。原燃料費や輸送費高騰でトイレットペーパーは今後も10%前後値上げの恐れ
▼半導体
半導体関連企業の6割が、ウクライナ情勢により製造工程で使うガスや希少金属の価格高騰を懸念している(SEMIジャパン調べ)。今後、スマホやPCの供給減、値上げの危機も
▼アルミ
2月時点で国際価格が13年半ぶりに過去最高値を更新。世界生産の5%を占めるロシアとの関係悪化で、アルミホイルや電動アシスト自転車などがさらに10%前後値上げの恐れ
【丸山晴美氏】
節約アドバイザー。マネー誌での節約術が話題となり、メディア出演や講演多数。『節約家計ノート』(東京新聞)は19年間発行され続けるロングセラー
【森永康平氏】
経済アナリスト。金融教育ベンチャーのマネネCEO。国内外のベンチャー企業の経営にも参画。新刊『スタグフレーションの時代』(宝島社)
<取材・文/週刊SPA!編集部>
―[意外な[値上げ現場]の断末魔]―