かつては”上がり”とされてきた還暦。人生100年時代という延長戦を迫られた今、おめでたいと手放しで喜べる余裕はない。ミッドライフ・クライシスの先に待ち受ける、60代の厳しい現実とは?

◆仕事や健康面の喪失体験で初老期うつ病のリスクも

60代の精神的変化を精神科医の片田珠美氏が解説する。

「初老期うつ病を発症しやすい年代で、きっかけとなるのは、大切なものを失い『自分はもうダメだ』と思い詰める喪失体験。定年退職で収入が減る経済的損失、再雇用で肩書がなくなる地位の失墜など、経済力や社会的地位といった“持っているもの”がある人ほど落差が大きく打撃を受けやすい。また、病気やケガなど健康の喪失も含まれます。特に痛みを感じる不調は『もう治らないのではないか』と悲観的になりやすい」

◆60点で合格とし老化を受け入れる

初老期は老いの過渡期に当たる。70代に入れば諦めがつくものの、元気だった自分を諦めきれずに悩むという。

「老化で肉体も頭脳も衰えるので、これまでのような100点満点は無理。それに、完璧主義な人ほど喪失体験のダメージを大きくしてしまいます。60点を合格とし『よくやった』と自分を褒めてあげること。それが老いを受け入れることにもつながります」

合格点を下げることが身を守る術となる。

・危機回避策
加齢は不可避。60点で合格とし老化を受け入れる

◆「仕事が生き甲斐」世代が不安視する定年後のキャリア

定年後、働かないことに不安を感じる人は8割を超える。

定年前後のキャリア支援を行うライフキャリアコンサルタントの金澤美冬氏に話を聞いた。

「仕事が生き甲斐という人ほど生きる意味を失いやすく、組織に従順だった人は定年後のイメージが描けず漠然とした不安を抱きやすい。社会的立場の変化を頭では理解できても感情が追いつかないのです。政策で定年が70歳に上がっても、60歳が節目となるのは変わらないでしょう」

◆新たな居場所をつくることが大切

再雇用、転職、起業などの選択肢はあるが、何をするかヒントを得るためにも新たな居場所をつくることが大切だという。

「今を定年後の準備期間と捉え、仕事以外の自分の役割を付与していきましょう。大切なのは、まず同年代と交流し動向を掴むこと。若い人に刺激をもらうのも手です。おすすめはフェイスブックなどで趣味や地域のコミュニティグループに参加し、そこからリアルでも会うハイブリッド式。ただし、コミュニティに入ったら抜けられないと思わないことです。いつでもやめていいという気持ちでまずは一歩踏み出しましょう」

60代のあるべき姿とは。

「自分をよく見せようと過去の成功体験にすがるのではなく、今取り組んでいる挑戦や失敗を見せられる人になること。今を生きることが若者に“化石扱い”されないコツです」

・危機回避策
組織の外で自分の幸せを模索し新天地を開拓する

◆60代の9割以上は男性ホルモンに異変が

性機能の衰えも顕著に表れる。生殖器の治療に詳しい外科医の井上裕章氏は語る。

「血流の低下や男性ホルモンをつくるライディッヒ細胞が減るなど、60代になると、9割以上の人に精巣組織での変化が生じます」

男性ホルモン低下の影響は、性欲の減退や勃起不全(ED)のみならず、体と心にも及ぶ。

「EDの相談者の中には、気分がふさぐと訴える人もいます。その場合は『LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)』を疑ってもよいでしょう。男性機能の低下、筋力や骨密度の低下などの身体症状のほか、不眠、無気力、イライラ、集中力や記憶力の低下など、うつ症状が出る場合もあります」

◆楽しめる趣味や適切な性的刺激でホルモンの低下を防ぐ

対処法はあるのだろうか。

「医師と相談の上、男性ホルモンの補充療法が可能です。ホルモンは環境の影響も大きいので、良好な夫婦関係や趣味を楽しむなどストレスから身を守ることも有効です。性行為や自慰行為で男性ホルモンの値が上がるという研究もあります」

適度な性的刺激も“生涯現役”のカギとなるのだ。

・危機回避策
楽しめる趣味や適切な性的刺激でホルモンの低下を防ぐ

【精神科医・片田珠美氏】
広島県生まれ。臨床経験に基づいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。近著に『他人をコントロールせずにはいられない人』

【ライフキャリアコンサルタント・金澤美冬氏】
プロティアン代表取締役。おじさんLCCというコミュニティやセミナーを運営。50〜60代のライフキャリア支援を行う

【ヴェアリークリニック院長・井上裕章氏】
山口県出身、東京大学医学部卒。外科でのがん治療や美容クリニック勤務を経て同クリニックを開院。ED治療や下半身美容に注力

取材・文/週刊SPA!編集部

―[[60代危機]という新たな病]―