生活保護のケースワーカーやDV被害者など、社会問題を題材とした作品や役柄へ意欲的に挑戦してきた俳優の吉岡里帆。現在公開中の映画『ハケンアニメ!』ではアニメ監督を演じ、手がけた作品が見る人に「届いた」と実感するシーンを熱演。俳優として、同じことを感じた経験を持つという。

小劇場の舞台俳優や、学生主催の自主制作映画などからスタートした吉岡のキャリア。話題作に立て続けに出演し、7月には初の舞台主演を務めるなど、現在の活躍にいたるまでに舞台や映画、ドラマへの出演に留まらず、グラビアやバラエティ番組など様々な経験をしてきている。

「やりたい仕事」と「やるべき仕事」との差を、これまでどのようにして近づけてきたのか。また、難しい役柄にチャレンジする理由についても話を聞いた。

◆社会問題をエンタメで伝えることに意義がある

──俳優という仕事は、視聴者の反応が直接届くことが少ないと思います。吉岡さんがドラマや映画に出演して、見る人に「伝わった」と実感する瞬間はありますか。

吉岡 自分の仕事が上手く伝わったか、不安に思うことは多いです。でも、『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系/2018年放送)というドラマで、生活保護のケースワーカーの役を演じたとき、何年か経ってから偶然に出会った人に「あのドラマがケースワーカーになるきっかけになりました」と言ってもらえたことがあったんです。

──それは嬉しいですね。

吉岡 それから、DVを受ける女性が主人公の『きみが心に棲みついた』(TBS系/2018放送年)で主演だったときには「自分だけじゃないんだ」とか「それでも頑張ろうと立ち上がる気持ちになれた」と、これも偶然出会った人に言ってもらえる機会がありました。そういうときには、ああ、自分が思っている以上にしっかりと人に届いているのだ、と感じます。

──ケースワーカーやDV被害者、最近では『しずかちゃんとパパ』(NHK BSプレミアム/2022年放送)でのろう者の父を持つ娘と、難しい役柄が多いです。チャレンジングな役を演じているぶん、いい反響を得るハードルも高いのではないでしょうか。

吉岡 だからこそ、余計にハードルの高いものに挑戦していこうと、改めて思えます。

◆乗り越えていく「方法」を見せていける作品に惹かれる

──その社会的な問題意識の高さは、どこから来ているのでしょう。日本のエンタメは、社会的な部分を切り離してエンタメに振り切る作品もまだまだ多いと思うのですが。

吉岡 意識が高いと言われると恥ずかしいです(笑)。単純にオファーをいただく機会が多いということもあります。それと、アメリカの俳優のステラ・アドラーの本を読んだときに、彼女は「役者ができる仕事は2つある」と言っていて。それは「人を楽しませることと、歴史を伝えることだ」と。

 その時代その時代の社会の問題を、エンタメという取り入れやすい形で伝えることは、とても意義があると思ったんです。無力な自分でも、なにかを担えるかも知れないって。なので、難しい題材や役柄のオファーをいただいたときには、自分がチャレンジできる内容だったり意味があるメッセージが込められていると思ったりしたら、できる限りやろうと思っています。

──今、吉岡さんが興味を持っている「難しい題材・役柄」はありますか。

吉岡 私は、今、NHKのドラマ『しずかちゃんとパパ』で耳の聞こえない父親をサポートして暮らす子どもの役をしているのですが、「ハンディを家族で乗り越える」という話には昔から興味があります。ただつらいだけではなく、それをどう乗り越えていけるかの「方法」を見せていける作品に惹かれますね。

◆「芸能界に向いてないと悩んだこともあった」

──5月20日公開の映画『ハケンアニメ!』では、若手の女性アニメ監督・瞳役で主演を務めています。瞳監督はデビューが早かったせいで「実力がない」「話題作りだ」などと噂やバッシングに遭いますよね。吉岡さん自身は、自分のやっている仕事と周りの評価のギャップに悩むことはありましたか。

吉岡 私はまず舞台がやりたくて、映画やドラマももちろん大好きなんですが、はじめは顔を知ってもらうためにいろいろなテレビ番組やグラビアなどに出させてもらっていました。とはいえ、小劇場からはじまったキャリアなので、やっぱりバラエティ番組などのお仕事は不慣れで、立ち居振る舞いが空回っていたと思います。

空回ったことで自信がなくなって「芸能界に向いていないんじゃないか」と悩んだことはありました。ギャップというより、目の前の仕事に対応しきれないジレンマのようなものは、今より昔のほうが多かったです。

◆目標と目的を明確にすることを心がけています

──そういった仕事のジレンマは、どうやって乗り越えましたか。

吉岡:「これは、自分が現場に対応できていないな」と客観視して、まずはしっかり反省しなきゃと思いました。いったん、なにがダメだったのか持ち帰って分析をするんです。この仕事では自分はなにを求められているのかを、冷静に頭に置いておかないといけないと思いました。

テンパり過ぎていいことってないですから。落ち着いて、この媒体では何が必要なのか? この作品はみんなで何を目標に作っているのか? と、目標と目的を明確にすることを心がけています。

──その心がけは、どんなお仕事でも変わらないのでしょうか。

吉岡:そうですね。私はエンターテインメントというものが本当に大好きで、舞台も映像も写真も、全ての関わっている方たちにリスペクトがあるタイプなので。だから、どんなお仕事でも「ちゃんと媒体に染まりたい」という思いが強いんです。

◆『ハケンアニメ!』に対する思い

──では、映画『ハケンアニメ!』に対しては、どんな思いで臨んだのでしょうか。

吉岡 この作品の原作は辻村深月さんの小説です。辻村さんのアニメーターたちに対する熱い思いと、普段見られることの少ない「裏側」を描き切る愛が詰まった作品なので、まずはその魅力を届けなければいけないという根本の使命があります。

アニメが好きな方も、そんなに見ないという方にとっても「アニメを作っている人たちってなんてかっこいいんだ!」という胸が熱くなる瞬間。それがこの映画にとっては大切な部分です。エンタメとしての盛り上がりも大事な作品ですが、人の内面の細かな心の動きもしっかりと描いて表現しなければいけないと、役をいただいたときに感じました。

人が成長する過程とその結末のカタルシス。その瞬間をどう作っていくか、台本を見ながらずっと考えていました。

◆ひとつのセリフとその圧で刺しにくる

──『ハケンアニメ!』の中ではライバル関係にある、王子監督役の中村倫也さんの演技に影響を受けた部分はありますか。

吉岡 中村さんって本当に掴みどころのない面白い方で、そこが王子というキャラクターとすごくマッチしていて驚かされました。中村さんが王子という存在そのものに見えるので、こちら側もその力に引っ張られて演技に集中できたところがありました。

──ライバル関係ながら、共演シーン自体はそこまで多くなかったですよね。

吉岡 確かにそうですね。ただ2021年に、劇団☆新感線『狐晴明九尾狩(きつねせいめいきゅうびがり)』という舞台で共演したときにハッとさせられたことがあったんです。

舞台でも映像でも、細かく心を重ねて表現することはとても大切だけど、たったひとつのセリフやその圧力で「刺しに行く」という感覚での言葉の発し方が、すごく威力を持つことがあるんだ、ということをおっしゃっていて。舞台役者さんだからこその言葉ですよね。

「届ける力」を1回のセリフにガッと集中させるというのは、『ハケンアニメ!』での王子のセリフを完パケで聞いたときに納得させられました。見ていてグンッと引っ張られる感じ。こういうことかあって、映画が完成してから気づかされたんです。

──それは、見ている人だけでなく共演者同士で「刺し合う」こともあるんでしょうか。

吉岡 あると思います、お互いに第六感で。瞳と王子はお互いに探りながら様子を見合っている役ですが、演技で試みていることと役柄がリンクすることもあるんだと感じました。

◆みんなでやっているからできていることばかり

──劇中では、柄本佑さんが演じるプロデューサーの行城が瞳を、尾野真千子さんが演じるプロデューサーの有科が王子を、それぞれ違うスタイルでサポートしていました。吉岡さんにとって、このふたりのような頼れる存在はいますか?

吉岡 ここ(取材に同席)にいるふたりのマネージャーさんたちですね。ふたりは、監督の意見は無視して物事を強引に進める行城さんよりは、監督の気持ちに寄り添ってくれる有科さんタイプだと思います。行城さんは、うちの事務所の社長に似てるかも(笑)。

行城さんのプロデュースの仕方って、される側にとっては時間が経ってからそのありがたさがわかるやり方だと思うんです。有科さんは、そのときそのときの時間軸を大切に過ごすというやり方。どちらも甲乙つけがたいというか、素敵なプロデューサーですよね。

──どちらも味方にいたら良いですね。

吉岡 本当に心強いですよね、こういう人たちがそばにいてくださったら。クリエイターがなぜクリエイトできるのかというと、それは裏側でサポートして並走してくれている人がいるからなんですよ。

私はどの仕事も本当に好きだし、役者は、演技に限らず色々な経験をすることでわかる世界が多い職業だと思います。やっていることの全部に意味がある。

難しい役柄でも、慣れないテレビ番組への出演でも、マネージャーさんは「里帆ちゃんがやりたいと思うなら全力でサポートするし、ずっと付いていきますよ」って言ってくれるので。その言葉と、普段サポートしていただいている時間が、完全に私を引き上げてくれている。みんなでやっているからできていることばかりです。一蓮托生ですよ。

【吉岡里帆】
'93年、京都府生まれ。'16年のNHK連続テレビ小説『あさが来た』出演、'17年出演のTBS系ドラマ『カルテット』の怪演で注目を集めた。今年は映画『ホリック xxxHOLiC』『ハケンアニメ!』など話題作への出演が続いている。7月上演の『スルメが丘は花の匂い』では舞台初主演を務める

撮影/唐木貴央 取材・文/むらたえりか スタイリング/圓子槙生 ヘアメイク/美舟(SGNO) 構成/森ユースケ