すごい速さで変化し様々なものが生まれては消えていく現代。モノやサービス、言葉だけでなく「動作」も変化していることに注目し、失われていく動作をまとめた『絶滅危惧動作図鑑』(祥伝社)なるものが出版されている。そこに掲載された動作は、確かに懐かしさを感じるものだが、実際に絶滅の危機に瀕しているのか。実際に、Z世代が絶滅危惧動作を知っているのか、検証してみた。

◆絶滅危惧動作とは

 まずはそもそも、絶滅危惧動作とはなんなのか。同作の著者であるグラフィックデザイナーの藪本晶子氏に話を聞いた。

「藝大に通っていた時、課題として街中にいる人たちの行動をたくさんスケッチしたんです。そこから”モノの数だけ動作がある”ということが見えてきました。現代は、スマートフォンでなんでもできるようになってきたので、なくなっていったモノがありますよね。それで、失われていく動作に注目するようになりました」

 テレビ本体のダイアルでチャンネルを変える動作や、黒電話で電話をかける動作など、昭和を生きた世代にとっては、どれも郷愁を誘うような動作ばかりが掲載された図鑑。しかし、現在20代である藪本氏は、この全てを体験していたわけではないそう。

「大学時代の課題として集めたのは50あまりの動作で、本を出版するにあたって100まで集めました。もちろん、私が知らないものあるので、ネイティブの方(その時代を生きた世代)に話を聞いたりして集めていきました」

◆Z世代も意外に知っている?

 ここからは、実際に図鑑に掲載されている動作をZ世代にクイズとして見せて回答できるかを検証していく。回答者は、歌やダンスだけではなく本格派のコントや漫才までこなす6人組アイドルユニット「HIKARI SHOEMITT」の鈴嶋アンジュ(17)。藪本氏に出題と解説をお願いし、筆者(30代)が実際にその動作を行った。

<第1問 テレビを叩く>

藪本:最初は簡単なところからいきましょう。第1問の動作、お願いします。

筆者:(四角いものの側面や上面を叩くような動き)

アンジュ:これはすぐわかります!映らなくなったテレビを叩いている!

藪本:正解です!アンジュさんが物心ついた時には、箱型のテレビはなかったと思うんですが、なぜわかったんですか?

アンジュ:サザエさんでこんな場面を見たことがあったので、わかりました。実際には、あの四角い、四角テレビ?は、本当に小さい頃にしか見たことないです。

筆者:四角テレビ(笑)。ブラウン管のテレビですね。

<第2問 小指を立てて愛人を表現>

藪本:続いては、何かを表現している動作です。お願いします。

筆者:(小指を立てる)

アンジュ:あ!女!

藪本:正解です!(笑)。どんな時にこの動作の意味を知ったんですか?

アンジュ:ドラマとかで見たような覚えがあります。カッコつけてるけど、ちょっとキザでダサい人が使うイメージです。

藪本:かなりイメージもきちんと伝わっていますね。彼女や恋人の存在を大声で言うのが憚られるようなシチュエーションや、照れ隠しとして使われていたみたいです。

筆者:「私はこれ(小指を立てる動き)で会社を辞めました」というテレビCMが放送されて、その中では「愛人」という意味で使われていて、そのニュアンスも広まりましたね。昔は愛人のことを「2号さん」とか呼ぶこともありましたね。

<第3問 バックして駐車する仕草>

藪本:少し難しくなるかもしれません。続いての絶滅危惧動作、お願いします。

筆者:(椅子に腰掛けた状態で、右手は体の前で何かを掴む。左手は隣の人の肩を抱くように伸ばす動き)

アンジュ:えー、なんだろう。あ!わかった!バックで駐車しているところ!

藪本:おぉ!正解です!動作というのはモノの数だけあるんですが、これは、モノが変化していくと動作が失われる一例です。かつて、車をバックさせる際は、このような動作をしていたそうです。しかし最近では、ほとんどの車にバックモニターがついたので、この動作も絶滅危惧に瀕しています。

アンジュ:確かに実際には見たことないかもしれません。バラエティ番組の「胸キュンシーン」の特集で見たので覚えています。

◆Z世代が全く知らない動作

<第4問 カセットのテープが飛び出したとき>

藪本:次はかなり難しいと思います。お願いします。

筆者:(左手に10センチほどの物をもち、右手の小指でその中央付近をくるくると回す動き)

アンジュ:え、何かほじくってるんですか?鉛筆を削ってる?

藪本:女の人だと、人差し指でやる人もいると思います。私も子供の頃は、実際に人差し指でやっていました。

アンジュ:全然わからないです!

藪本:正解は、カセットから出てしまったテープを巻き取っている動作です。

アンジュ:正解を聞いてもよくわからないです(笑)。カセットは知ってます!CDの前のやつですね!テープを巻き取ると、音が良くなるんですか?

藪本:音は良くならないです(笑)。テープが出てしまうと、聴けないので修復している動作です。これも、カセットという「モノ」がなくなったのに伴って絶滅に近づいている動作ですね。
VHSは知っていますか?DVDの前のやつ(笑)。

アンジュ:四角いものが存在することは知ってますけど、それを使って何かを見たことはないです。

筆者:カセットテープやVHSのテープには、自分が録画や録音をしたものに、上から別の録画や録音で上書きされないようにする方法があるんですが、どんな方法だと思いますか?

アンジュ:えー、名前を書くとかですか?(笑)

藪本:確かに(笑)。ある意味正解ですね。ただ、モノと動作の話で言えば、カセットテープやVHSの「ツメを折る」という方法があるらしいんですよ。これは私も、本を作るにあたって調べていく中で知りました。

筆者:さらにいうと、その折った部分をセロテープで塞ぐと、また録画や録音ができるようになるんですよ。

◆歴史になりきれていない動作が絶滅危惧

<第5問 井戸の水を汲む>

藪本:最後は、私もやったことがないんですが、やってみたい動作です。お願いします。

筆者:(立ちあがって、両手で何か上から下に押し込むような動き)

アンジュ:井戸の水を汲んでいる?

藪本:当たりです!やったことあるんですか?

アンジュ:本物はないんですけど、小学生の時に社会科見学で行った「江戸東京博物館」で体験しました。

藪本:私は『となりのトトロ』で見てから、やってみたいと思ってるんです。浅草や谷根千などの昔の雰囲気が残っている町や、古いお寺などで見かけるけど、流石に勝手にやるわけにはいかないので(笑)。

筆者:私は子供の頃を福岡の都心部で過ごしましたが、何人かのクラスメイトの家にはまだ、あの井戸がありましたね。意外にも重たい手応えは今でも覚えています。

藪本:こうやって話を聞いていくと、古すぎると逆に「歴史」になっていて、資料館的なところで見かけたり体験できるから逆に若い人も知っているんだということがわかりますね。そういう意味では、カセットテープは絶妙にわからない古さなんですね。

◆学校に保存される絶滅危惧動作

 絶滅危惧動作クイズを終え、10代の回答者と20代である著者の藪本氏、そして30代の筆者で図鑑を見ながら話していると、時代の移り変わりが見えてきた。

アンジュ:ギョウ虫検査はしたことないです。

筆者:私の時代は当然のようにやっていましたよ。検査のあとは半日くらい、お尻がベタベタして気持ち悪かったのを覚えています。

藪本:私は小学校の途中でなくなりました。なので当時は、ある程度大人になったらやらなくて良くなるのかと思っていました。でも、そうではなくて日本の衛生環境がととのってきて、ギョウ虫が原因となる病気がなくなったために廃止されたそうですね。

アンジュ:学校関連でいうと、雑巾をしぼったりホウキとチリトリで掃除したりはやったことがありますけど、家ではやったことないです。

藪本:学校では教育として、あえて進化させずに残しているのかもしれませんね。

アンジュ:なので、缶切りで缶を開けたり、瓶の牛乳のフタを開けたりするのは、学校で教わらないので、できないです。

筆者:瓶の牛乳を飲む機会はないですもんね。私より上の世代では、ペットボトルがないのであらゆる飲み物が瓶で売られていて、値段も今より高かったそうです。ただ、飲み干した後に空き瓶を販売店に持っていくと数十円もらえたんですよ。だから、今は町のいたるところにペットボトルのゴミが落ちていますが、当時は瓶のゴミはほとんどなかったそうです。

藪本:私の時代でも、お祭りで売っているラムネはそのスタイルが残っていました。

 絶滅危惧動作を実際にZ世代に見せると、意外なほど知っていることがわかった。しかしそれは、テレビ番組やアニメで見かけたというもので、実生活ではまさに「絶滅危惧」になっていることも見えてきた。諸行無常の世の中、今は当たり前に行なっている動作も、10年後には失われているかもしれない。そんな動作を意識して探しながら過ごしてみるのもまた一興だ。<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。