夫婦の3組に1組が離婚する時代、再婚や事実婚のカップルも珍しくなくなり、親世代が認知症という家庭も少なくなくなった……。家族のかたちが大きく変容するなか、身近になった相続問題で悩む人は増えている。今回は徴税ルールが厳格化している現状で、賢い節税についてプロに指南してもらおう。プロの知恵を参考に賢く節税して、少しでも多くの遺産を受け取りたいものだ。

◆相続税の計算方法と基礎控除のイロハ

 相続の基本を、円満相続税理士法人の大田貴広氏と一緒に遺産総額5000万円のケースで見ていこう。

 まず、相続税の計算方法。故人の遺産は配偶者に2分の1が配分される。子供が2人いた場合、残り半分を折半するためそれぞれ4分の1に。子供がいないと故人の親や兄弟が相続する。

 モデルケースでは、まず基礎控除「3000万円+(600万円×相続人3人)」が4800万円。遺産は5000万円あるので、差し引き200万円が課税対象額と弾き出される。

 これを基に相続税を算出すると、母親の課税対象額100万円に最低税率10%がかかり10万円。子供2人はそれぞれ50万円の10%で5万円となるが、母親は配偶者控除で優遇されている。

「相続財産の評価額が1億6000万円か、法定相続額のどちらか高いほうまで非課税になります。この場合、1円も支払わないでいい」(大田貴広氏)

◆相続分の割合は遺言書で変わってくるケースも

 もちろん、相続分の割合は、遺言書があれば変わってくる。

 仮に、故人に愛人がいて「全財産を相続させる」という遺言があった場合、相続権のない愛人にも遺産は分け与えられるが、ほかの法定相続人が「遺留分」(後に詳述)の権利を主張すれば認められる。

◆節税テクの王道、生前贈与という秘策

 節税の第一歩は、優遇制度を利用することだ。王道は、年間110万円まで非課税になる生前贈与。父母、祖父母が子や孫に贈与すると、贈与税が遥かに安くなる。

「もっとも有効なのは孫への生前贈与。生前贈与でネックとなるのは、被相続人が亡くなった日から過去3年以内に贈与した財産は、死亡時の財産に持ち戻して相続税が課税される『3年内加算ルール』。

 このルールが適用されるのは相続か遺贈によって財産を取得した人ですが、孫は対象外となるからです。ただ、来年以降、法改正で孫も『加算ルール』の対象に含まれてしまう可能性がある」(大田貴広氏)

▼相続税節税の基本

生前贈与
年間110万円までは非課税。相続の発生日(被相続人が亡くなった日)から遡って3年以内の贈与は、相続財産に含まれる(持ち戻し加算)

生命保険(死亡保険金)の非課税枠
非課税枠=500万円×法定相続人の数。分割協議、遺留分の対象にならない。受取人に配偶者ではなく、子を指定すると節税効果が大きい

養子縁組
養子縁組で相続人の数が増えた分、基礎控除額600万円+生命保険非課税枠500万円が非課税に。相続人が増えるのでトラブルのもとにも……

小規模宅地等の特例
親と同居している場合、土地の評価額を80%減額。330㎡までの宅地が対象。配偶者には手厚い優遇措置があるので、子が相続したほうが得

相続時精算課税制度
2500万円までの贈与を非課税にできる。相続時に財産として持ち戻し加算されるが、相続税が発生しない小規模の相続の場合はメリット大

◆生命保険の非課税枠の「損しない」利用法

 生命保険も「法定相続人の数×500万円」が非課税なので、生前贈与に利用すれば節税に有効だ。だが、やり方が拙いと税務署に睨まれることもある……。

「子供に生前贈与した口座から保険料を支払うのです。生前贈与を税務署が認めてくれないケースの特徴の一つは、入金ばかりで出金がないこと。

『名義預金』(名義は子供だが、実質は贈与した人の口座)と判断されやすいので、保険料を引き出すことで否定されるのを防ぐのです」(大田貴広氏)

◆養子縁組は孫相手がもっとも節税になる

 養子縁組は相続人が1人増えることで、相続税の基礎控除600万円、生命保険の非課税枠500万円が増える。さらに得する方法を、税理士の安藤裕氏が明かす。

「養子縁組した孫は父からではなく、祖父から1代飛ばして相続するので、相続が1回減ることになる。当然、相続税は大幅に軽減されます」

◆200万円超の相続税が120万円に節税

 実際、養子縁組で祖父の孫から子になった藤本晃平さん(仮名・45歳)は、こう話す。

「祖父の遺産は総額1億円ほど。私が養子に入って法定相続人が4人になり、非課税枠が5400万円に増えました。祖父の没後、約2500万円を相続すると、200万円超の相続税が120万円に節税できたんです。私だけでなく父もかなり節税できましたよ」

◆事実婚やLGBTが伴侶に相続するには

 一方、事実婚や生涯独身で通す“おひとりさま”、LGBTなど、新しい家族のかたちで生きる人々が増えている。だが、事実婚やLGBTのカップルもパートナーに財産を残したいのは一緒だ。

 性的マイノリティの老後について情報を発信するNPOパープル・ハンズ事務局長の永易至文氏は、こう話す。

「財産を確実に引き継ぐためには、本人の死亡時に有効となる死因贈与契約をパートナー間で結べば、遺産相続が可能になります。さらに、これを公正証書にすることで、より有効性を高められる」

◆借金を受け継がない相続放棄に期限アリ

 相続には多くの手続きが必要だが、期限を過ぎると使えない優遇制度や権利もある。 こうした「損しない」ための相続のタイムスケジュールがある。

<損しないための相続のタイムスケジュールチェックリスト>

●相続開始
□遺言書の有無の確認
□相続財産のリストアップ
□負債の有無の確認
□相続人の確定
□相続人の戸籍謄本などの取得

●3か月以内
□相続放棄・限定承認の手続きの期限
□遺産分割協議
□被相続人の没年の所得を確認

●4か月以内
□被相続人の準確定申告の期限
□遺産分割協議書の作成
□銀行口座、不動産などの名義変更
□相続税申告書の作成
□納税資金の準備

●10か月以内
□相続税の申告、納付の期限

●1年以内
□遺留分の侵害請求の期限

●3年10か月以内
□配偶者の税軽減、小規模宅地等の特例を利用するための遺産分割の期限

◆相続放棄の期限が過ぎて思わぬ損をしてしまったケース

 例えば、遺産が借金だけだった場合、相続放棄をすれば肩代わりせずに済む。だが、相続放棄の期限の3か月を過ぎ、思わぬ損を被ったのが、正木昭さん(仮名・38歳)だ。

「最初は遺産が転がり込むと喜んでいました。ところが、相続して半年後、生前、父に借金があったことが発覚。私は3階建ての貸しビルを相続し、賃料も入るので満足していましたが、結局、借金の支払いと引き換えにビルを手放すことに……。相続の知識があれば、もう少しうまく対処できたでしょう」

◆相続発生から3か月と期限まで短い限定承認

 相続放棄と同様に、相続発生から3か月と期限まで短いのが限定承認だ。相続放棄が遺産のすべてを受け継がないのに対して、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続できる。

 例えば、相続財産が1000万円の借金と100万円の形見のダイヤモンドの指輪という場合、100万円を借金の相手に支払えば形見を手放さずに済む。

 10か月後が期限の相続税の申告・納付は、現金一括納付が原則。期限を過ぎると延滞税が加算され、余計な税金を納めるハメになる……。

 1年後に期限がやってくるのが、遺留分の侵害請求だ。遺言書には絶大な効力があるものの、相続人の最低限の取り分である「遺留分」を侵すことはできない。遺留分が少ない場合、遺留分の侵害請求をすれば不足分を取り戻すことができるのだ。

 小規模宅地等の特例は、土地の評価額を80%も減らすことができる。節税のために是非利用したいが、この特例を利用するための遺産分割にも3年10か月以内と期限が設けられている。

◆タンス預金ではなく不動産小口化証券を

 税制や優遇措置を利用した損をしない方法以外に、節税する術はないのか。

「現実には、タンス預金で数千万円単位の相続税逃れをしている人も多いのが実情です」

 こう語るのは、税理士法人エールの永江将典氏だ。本来、タンス預金は相続税の課税対象だが、現金を手渡しすれば金融機関に履歴は残らず、徴税当局が捕捉するのは難しい。だが、もちろん法に触れるのでお勧めはできない。合法で損をしない節税法について永江氏が続ける。

「これまでも不動産を購入して、評価額の基となる路線価と実勢価格の乖離を利用した相続税の節税は盛んでした。今、人気になっているのが不動産小口化証券です。都心の一等地に立つような資産価値の高いビルなどの不動産を分割して、少額でも買えるようにしたもので、時価と相続税評価額の差額の分、相続税を圧縮できます」(永江将典氏)

 現金や有価証券を相続すると、額面がまるまる課税されるが、この方法なら課税対象額自体を減らせる。立地が都心なら下落リスクは低く抑えられ、リターンも期待できるだろう。

◆一般社団法人を設立して相続税を節税

 政治家と税理士の経歴を持つからか、安藤裕氏はこんな妙案を教えてくれた。

「法人には相続税がありません。規制緩和に伴い、登記するだけで設立が可能になった一般社団法人は、節税手段として、盛んに利用されてきました。個人で行う節税には限界があり、法人化は一般的な節税法と言っていい。法改正でこの手法のハードルが非常に上がったが、現在もできないわけではありません」

 プロの知恵を参考に賢く節税して、少しでも多くの遺産を受け取りたいものだ。

【円満相続税理士法人・代表社員 大田貴広氏】
税理士。主に相続・事業承継案件に従事。遺産総額100億円超の案件など、200件超の相続税申告を担当

【税理士・前衆議院議員 安藤裕氏】
相模鉄道入社後、税理士資格を取得。安藤裕税理士事務所を開設。’12年の初当選以降、衆議院議員を3期務めた

【税理士法人エール代表社員 永江将典氏】
監査法人トーマツ、トヨタ自動車経理部を経て独立。上場企業の監査、株式公開支援など広範な分野に精通する

【行政書士・FP技能士 永易至文氏】
専門知識を生かし、LGBT向けに相続についての講演を精力的に行う。編集者・ライターとしても活躍する

取材・文/週刊SPA!編集部

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