◆ポケモンが描かれたジェットはANAにあった

ポケットモンスターは1996年に誕生し、26年が経過した。全てのポケモン関連ゲームソフトの累計出荷本数4.4億本以上となり、ゲーム界の王者の位置を不動のものとしている。原点であるゲームから派生したテレビアニメは192か国で展開。カードゲームで77か国になる。

エアラインの販促に用いられたのはANAが1998年と早かった。航空機の機体に塗装を行えば、空港で目立つことこのうえなく、搭乗者だけでなく多くの人の目に付く。

同年7月2日には「ポケモンジェット」の名前でボーイング767-300と747-400の2機に特別塗装を施され、空にデビューしている。

ANAのポケモンプロジェクトは2011年に始まったピースジェットが2016年まで続いて終わる。

◆コロナ禍以降に続々登場

株式会社ポケモンの「そらとぶピカチュウプロジェクト」に賛同したエアラインの中から、スカイマークが2021年6月に「ピカチュウジェットBC」機のサービスを始めた。2022年5月には「ピカチュウジェットBC2」が飛び始めている。

同時期に就航を開始したソラシドエアの「ナッシーリゾートin宮崎号」とAirdoの「ロコンジェット」がある。これらは株式会社ポケモンとの別の提携となる。

プロジェクトはアジアの空に広がることとなった。シンガポールのLCCスクートは 8月12日に「ピカチュウジェットTR」を就航させると発表し、9月9日にシンガポール発成田空港行きで初便を就航させた。続いてチャイナエアラインは「ピカチュウジェットCI」を10月2日に台北松山空港と羽田空港を結ぶことを発表した。

呼称には各エアラインの認識コードとなるIATA 2レターコードを付与していることで差別化をしている。

◆ピカチュウジェットTRに乗ってみた

今回、就航開始したスクートのピカチュウジェットTRの成田空港発初便に搭乗する機会を得た。

9月9日の成田空港ターミナル1の37番ゲート付近では、搭乗客が集まり始めており、フォトセッションが行われた。

株式会社ポケモンの執行役員 福永 晋(ふくなが すすむ)さんとスクートの日本支社長 比留間 盛夫(ひるま もりお)さんをはむようにスクーティー(客室乗務員)とパイロットの制服を着たピカチュウの着ぐるみで記念撮影が行われた。自撮りで乗務員全員が集合する微笑ましい光景も見られた。

シンガポール発の初便は成田空港に到着し、9時頃にゲートから見える位置に姿を現した。ボーイング787-9(機体番号9V-OJJ)は、白色を基調に、花びらや葉っぱが舞う光景は、花の香りをイメージしている。機体にはピカチュウ、ピチュー、シェイミ、コダック、ラプラス、セレビィ、メガニウムが描かれておりエンジンのカウリング内側には搭乗した一部の人にだけ見えるキャラクターが隠されている。

機体の搭乗ドアが開いた場所は、ピカチュウが風船をくくりつけているバルーンの4色が重なる場所であり、近くでみるとその巨大さがわかって面白い。

機内は、オーバーヘッドビン(手荷物入)に最後部までシールが貼られていることに加え、エコノミークラスではヘッドレストが専用のものになっていた。日本をイメージした新メニュー「ジンジャー照り焼きチキンご飯付き」を頼むと、紙ナプキンや紙コップに専用デザインが用意され、オリジナルデザインのクッキーの入る箱もあり、楽しい食事時間を演出してくれた。

フライト後3時間を経過した頃、機内の照明はレインボーに変わった。何か始まるぞという期待感があり、アナウンスでスクーティーがダンスを披露すると言う。機内コンパートメントの間の空間で、ポケモンのテーマソングに合わせてスクーティーが踊り、希望する乗客も飛び入り参加していた。

続けて、間違い探しゲームが行われた。希望者にはカードが配られ、間違いを捜し出し先着順でポケモングッズが渡された。その後もスクーティーは、キャラクターのデザインされた沢山のフリップを持ち、機内を巡り、記念撮影を求められると気軽に応じていた。

スクートは合言葉に「Escape the ordinary=日常から飛び出そう」を掲げており、機内で過ごす時間を楽しく演出してくれていた。時間の経過が短く感じられるフライトだった。

◆株式会社ポケモン役員に聞く

このプロジェクトを推進した株式会社ポケモン プロジェクト担当役員の福永 晋さんに話を聞くことができた。

――プロジェクトの経緯を教えてください。

「コロナ禍で外出自粛をせざるを得ない状況の中、社会貢献の一環として取り組もうと社内公募で集まった社員16名で2020年6月に『そら飛ぶピカチュウプロジェクト』を発足させました。弊社がいくつかのエアラインにお声がけし、趣旨に賛同いただけるご縁のあったエアラインとご一緒することになりました」

――提携先がエアラインになった理由は。

「ポケモンはいままで冒険や旅の楽しさを表現してきました。そんなポケモンだからこそ、旅する楽しみを作り、ポケモンの力でわくわくドキドキする冒険の体験を届けたいと考え、旅に欠かすことのできないエアラインとの取り組みにこぎつけました」

――プロジェクト期間が5年ということですがこの期間になった理由は。

「機体デザインで塗装の場合ですと、5年が耐用年数と聞きましたので、その期間を考えました」

――この先、プロジェクトはどうなっていくのでしょうか。

「ポケモンは世界中で受け入れられていますので、より多くの地域にも広がればいいなと思います。また、外出自粛をせざるを得ない状況で立ち上がったプロジェクトであり、移動する方の背中を押したいというのがひとつの目標です。自由な往来がかなう環境に戻ったときにはその役割は終わると思います」と聞かせてくれた。

◆空港にもキャラクター出現

機内の搭乗客のワクワクした声を聞くと、このプログラムは大成功だと思えた。シンガポール チャンギ空港には、ターミナルビルに隣接する商業施設にジュエルがある。そのビルの中に日本以外でアジア初のポケモンセンターがオープンしている。当日は、「Pikachu Meet&Greet」というイベントが行われており、ピカチュウとの記念撮影に来場者が長蛇の列を作っていた。

ゲームの舞台は機械の中だけでなく、現実の環境の中に広がっている。

エアラインとの提携はコロナ禍収束に向けての起爆剤になる。両社にとってのメリットが大きいだけでなく、利用者へ新しい可能性を示してくれた。

戸外に出るリアルイベントとしてこの先10月には台北で、11月にはシンガポールでポケモンGOイベントが開かれる。日本から多くのファンが渡航することだろう。<取材・文・写真/北島幸司>

【北島幸司】
航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram@kitajimaavianwing