◆「スカーフが正しく着用されていない」と逮捕され撲殺!?

 9月28日、港区南麻布にあるイラン大使館に向けて、約300人の在日イラン人たちが抗議行動を行った。

 イラン西部クルディスタン出身のマフサ・アミニさん(22歳)は、家族とイランの首都テヘランに訪れていたところ、女性が必ず着用しなければならないスカーフ、ヘジャブが正しく着用されていなかったことを理由に、9月13日にモラリティ・ポリス(道徳警察)に捕まって留置施設で意識不明となり、16日に病院で死亡したと報道されている。

 イランに暮らす市民たちは「彼女は残酷にも撲殺された」と怒り、大規模なデモを行った。これに対しイラン当局は、「アミニさんは持病のため死亡した」と発表しているという。

 デモを制圧しようとした警察の発砲などによって、9月30日までに53人以上のイラン市民が死亡、数百人が怪我を負ったと国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは発表している。

◆厳しすぎる独裁政権に我慢の限界

 日本国内でもイラン大使館に向けて9月28日、全国から集まったう約300人ものイラン人たちによるデモが行われ、抗議のジュプレヒコールを繰り返していた。

「我々は死ぬ覚悟でここへきている」

「(この抗議行動により)もうイランには戻れない。帰ったら死刑になる」

「男女とも肌を露出した服はダメ、酒もダメ。女性がちょっとヘジャブから髪の毛が出ただけで、アミニさんのように殺される。あまりにも今の政権は厳しすぎる」

 彼らの話によると、今回のアミニさんの件は大きなきっかけとはなったが、43年以上も続く独裁政権に対する我慢が限界に達し、怒りが噴き出たとのことだった。

 参加者の中には、厳しい戒律のために自分の家族や親戚が警察に捕まったり、すでに死刑になったりしたという声もあった。麻布警察所の判断により、大使館前までは5人ずつ順番に行くことしか許されず、残りの参加者は大使館より離れた道路の反対側に追いやられ、「これでは大使館に声が届かない」と口々に不満を漏らしていた。全員で大使館前まで行けなかったことが残念だったと悔しがる人も多くいた。

 女性たちは「女性に自由を! 女性に自由を!」と精一杯の大きな声を上げていた。

 1979年、イラン革命により政権を握っていたパーレビ王朝は倒され、国王だったムハンマド・レザは国外への亡命を余儀なくされる。以来、ホメイニ師が最高指導者となり、ホメイニの死後もハメネイ師が後釜となり、イスラム体制が受け継がれ国民に厳しい法律を強いてきている。

◆渋谷駅前でもイラン人による大規模なデモ

 10月1日、渋谷駅前にイラン人たちが全国から約300人集まり、抗議行動が行われた。女性たちの参加も多く、デモに賛同する日本人の参加者も見られた。

 デモに参加した50歳代のイラン人男性は「43年の間、私たちイラン人はまるで刑務所にいるような暮らしだった。43年前はもっと自由だった。その頃に戻ってほしい」と語った。

 17歳までイランで暮らしていて、現在ベルギー国籍を持つ女性(27歳)は、「ヘジャブの着用義務はとても大変だった。学校へ行くにも、夏は40℃まで暑さが増すので辛かった。いつもモラリティ・ポリスが見張っている。目の前で逮捕される人も見たことがある。イランへ戻る気はもうありません」。

 日本生まれのイラン人女性(28歳)はこう訴える。

「アミニさんの件は今回が初めてではない。私のいとこもヘジャブの件でいちゃもんをつけられて、顔をボコボコにされた。今、彼女は国外で暮らしている。イラン革命の前に戻ってほしい。女性も男性も自由の立場になってほしい。日本人にも関心を持ってほしい。日本だって、いつこういうことになるかわからないのだから」

「パーレビ政権の頃に戻ってほしい」と言う声は圧倒的に多く、今アメリカで暮らしているムハンマド・レザの息子、クロシュ・レザの写真を掲げ、「彼こそイランのシャー(国王)になってほしい」と望む人もいる。

 そのほか、イスラム教自体を批判し「新しいリベラルな共和国にしたい」という意見の人もいる。考えが違っても、みな現在の政権を非難するということで一致団結して集まっているのだ。

◆世界中で、イランの政権に反対するデモが行われている

 参加者の多くは、日本で安定した在留資格を持っている。しかし、中には難民申請中で在留資格のない人もいた。

 千葉県から来た男性Sさん(53歳)は仮放免の立場なので、東京にあるイラン大使館に行くために、その日の朝に東京入管へ出向き、「一時旅行許可」を取ってからイラン大使館のデモに参加した。無断で自分の住む県から出たのがバレれば、入管に収容されてしまうからである。

「自分にはこれくらいのことしかできないから、せめてデモに参加したいと思いました。イランは厳しすぎます。特に女性には自由がない。厳しすぎて、これは差別だと思います。イランは石油も採れるし決して貧乏な国ではないはずなのに、市民は貧しくて生活は苦しい。本当に変わってほしいと思います」

 同じく、難民申請中で都内在住のベヘザードさん(44歳)にも話を聞いてみた。

「私の望みは、国民投票をしてほしい。今度こそ国民が選ぶ政府に変えたい。今の政府はもういりません。今日も、世界中のイラン人がイラン政権に反対するデモを行っています。『今の政権はいらない』という気持ちを共通点に、イラン人たちがひとつになりました。こんなことは、私が知る限りでは初めてです。

 私たちの声を聞いて、いろいろな国の人たちが応援してくれています。すぐには変わらなくても、いつかは変わることができると思います。希望は持っています。私はイランの厳しいイスラムの戒律が嫌で、キリスト教徒になりました。でも改宗はイランでは認められていなくて、その罪は死刑に値するので帰ることはできません」

 世界中で行われているデモに参加するイランの人々が目指すように、今の政権を変えることは本当にできるのだろうか。イラン国内では、今も多くの市民の血が流れている。それを終わらせるために、多くのメディア、世界中の人たちがイランの人権問題に関心を向けることを彼らは望んでいる。

文・写真/織田朝日

【織田朝日】
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)、入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)